『屍鬼』全巻あらすじ・ネタバレ感想まとめ!狂気と絶望が支配する村、衝撃のラストとは?

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siki 『屍鬼』全巻あらすじ・ネタバレ感想まとめ!狂気と絶望が支配する村、衝撃のラストとは?

 

今回は、藤崎竜先生による漫画作品「屍鬼」の記事を書いて行きたいと思います。

藤崎先生と言えば封神演義で有名な漫画家ですが、そんな藤崎先生が小野不由美先生作の小説「屍鬼」を漫画化した作品が今回の「屍鬼」となります。

今作も、昨日の記事と似たような外場村という人口1300人、一本の国道が唯一外界との繋がりという閉鎖された村での出来事です。

「村は死によって包囲されている」

人口の少ない村で行われてきたのが、墓などに使われる「卒塔婆」を作る産業でした。

そのため村の名前も「外場村」となったのではないかと思われます。三方を卒塔婆の素材となる樅に囲まれ、外界と隔絶されていることから「村は死によって包囲されている」と寺の若御院は雑誌の取材で漏らしたそうです。

不気味に死が漂う村ですが平和な小さい村を舞台に、「屍鬼」という恐ろしい存在が入り込み、次々と事件が発生していき謎の変死を遂げる村人たち、原因を探る医師との戦いが描かれます。

 

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屍鬼の見所

屍鬼の見所と言えば、美しい田舎風景や田舎の暮らしぶりが垣間見えるところかなと思います。

近所の人全員が知り合いのような会話のやり取りは、のどかな日常を感じさせてくれて、そんな穏やかな風景が逆に不穏さを際立たせています。

序盤では、村人たちが次々と謎の死を遂げても、住民たちは「病気」や「不幸な事故」として片付けてしまい、異変に気づいていないか、あるいは気づかないふりをしているようにも見えます。

確信が持てないまま、徐々に屍鬼に侵されていく村の描写は、じわじわとした恐怖を感じさせます。

何かがおかしいと感じながらも、直接的な証拠がないため動けず、不安と疑念が膨らんでいく緊張感がたまりません。

また、この作品のもう一つの見所は「人間ドラマ」です。屍鬼に襲われる側だけでなく、屍鬼として蘇る者たちにも焦点が当てられています。

家族や友人を襲わざるを得ない苦悩や、命を奪う側へと変貌してしまった悲哀が、ただのホラーにとどまらない深みを与えています。

さらに、尾崎敏夫や結城夏野といった登場人物たちが、それぞれの信念に基づいて屍鬼に立ち向かう姿も魅力的です。

合理的で冷静な医師・尾崎と、屍鬼の存在を受け入れつつも抗うことを決意する夏野。

彼らの葛藤や成長、そして極限状況での選択が物語に緊張感をもたらし、読む手を止められなくなります。

「屍鬼」はただのホラー作品ではなく、人間の業や信念、無力感と希望が交錯するドラマでもあります。

終盤に向けて加速する展開と、誰もが抗えない死と再生の運命に挑む人々の姿は、一度読み始めると引き込まれてしまうこと間違いなしです。

 

屍鬼あらすじ

1巻あらすじ

人口わずか1300人の静かな村、外場村で、ある日、4人もの村人が一度に亡くなるという異様な出来事が起こります。

検死の結果、遺体の損傷が激しく死因が特定できなかった人を除き、残りの2名は自然死と判断されました。

しかし、村人たちはこの不可解な死に困惑し、不安を募らせます。そんな中、村の有力者であった兼正の古い屋敷の跡地に、建てられていた立派な洋館に、新しい住人が引っ越してくるという噂が、村中に広まります。

以前から兼正の屋敷に強い関心を抱いていた女子高生の清水恵は、夜、洋館が建つ山道を一人で訪れます。しかし、深夜になっても恵は帰宅せず、心配した村人たちは総出で山狩りを開始します。

最後に恵を目撃したと思われる兼正の住人を訪ね、恵の居場所を尋ねますが、「誰も見ていない」と冷たく言い放たれてしまいます。しかし、読者の視点からは、兼正の住人と恵が接触していたことが示唆されています。

午前3時、ついに恵が発見されますが、ひどい貧血を起こしていました。村で唯一の医師である尾崎敏夫が診察し、貧血と診断しますが、その後、恵は突然亡くなってしまいます。

高齢者が多い村とはいえ、相次ぐ不審な死に、尾崎は寺の跡取りである室井静信とともに、伝染病の可能性を疑い始めました。

1巻では、次々と命を落としていく村人たちの様子が描かれ、亡くなった人々の中には、最後に兼正の住人と接触していた者がいることが明らかになります。しかし、尾崎はまだ兼正の住人を疑ってはいません。

村人たちは、相次ぐ死と兼正の住人の不可解な行動に、徐々に不安と疑念を抱き始めます。

そして、この小さな村を舞台に、想像を絶する恐怖と惨劇の幕開けが、静かに、しかし確実に近づいていることを、読者に予感させる内容となっています。

 

2巻あらすじ

2巻では、1巻で描かれた不穏な空気はさらに色濃くなり、村を覆う死の影は確実にその範囲を広げていきます。

1巻ではまだ元気な姿を見せていた駐在の高見までもが、不審な死を遂げてしまうのです。

高見の死は、村人たちに大きな衝撃を与えました。村の平和を守るはずの駐在が、他の村人たちと同じように、何の兆候もなく突然死んでしまったのです。

この出来事は、村人たちの間に蔓延していた不安と疑念を、恐怖へと変えていきます。

高見の死後、彼の妻と子供たちは、夜中に挨拶もなしに引っ越してしまいます。その引っ越しに使われたのは、高砂松の描かれたトラックであり、高砂運送と書かれていました。

さらに、塩田さん母娘も同様に高砂運送で引っ越しており、村では不可解な出来事が重なります。

新たな駐在として派遣されてきたのは、高見とは違い、人相の悪い人物でした。この新しい駐在の登場は、村人たちの不安をさらに煽ります。

一方、武藤家には、徐々に兼正の魔の手が忍び寄ります。ターゲットとなったのは、数日前に亡くなった清水恵がよく懐いていた結城夏野でした。

夏野が夜寝ていると、辰巳と恵らしき人物が家の外から近づいてくる気配を感じます。

疲れているだけだと自分に言い聞かせて寝静まると、恵は夏野と一緒に寝ていた徹に襲いかかります。そこで目を覚ました夏野は、夢だったと考えますが、徹の手には2つの小さな傷跡が残っていたのでした。

村の死者の数は19人にものぼりましたが、尾崎敏夫は未だ貧血からくる伝染病だと考えており、病院のスタッフを集め感染対策を徹底するように促します。しかし、尾崎のこの認識は、徐々に村で起こっている異変の本質からかけ離れていきます。

室井静信は、寺の檀家で亡くなった人がいる家を訪ねて歩き、事情聴取を始めます。そこで室井は、亡くなった人たちの中に、事前に仕事を辞めるという共通点があることに気づきます。

この事実は、室井に村で起こっている異変が、単なる伝染病ではない可能性を示唆します。

2巻では、起き上がりによる犯行ではないかと気付く村人が徐々に表れ始めます。そして2巻の最後には、村人の一人が白装束に身を包み牙を伸ばし村迫正雄に襲いかかるシーンで終わり、物語はさらなる恐怖と謎へと突き進んでいきます。

 

3巻あらすじ

3巻の冒頭では、誰にも看取られることなく、孤独に亡くなろうとする村迫正雄の姿が描かれます。彼の最期の様子は、村を覆う死の恐怖と、人々の孤独を象徴しています。

一方、尾崎敏夫は、これまで亡くなった村人たちと同様の症状で病院を訪れた加藤義秀の診察をしていました。加藤の妻が、自己判断で煎じ薬を飲ませていたことを知った尾崎は、素人判断による投薬を厳しく咎め、妻を怒鳴りつけてしまいます。

謎の疫病で次々と亡くなる村人たち、そして、その原因を特定できない焦りと疲労から、尾崎の苛立ちが頂点に達していたのです。

診察が一段落し、尾崎の前に室井静信が現れます。室井は、村で死ぬ前に退職した人が6名、転居届も出さずに引っ越した人が22件と、不可解な出来事が起きていることを尾崎に告げます。しかし、尾崎は、これらの出来事を疫病とは無関係と決めつけ、室井にも怒りを露わにします。

そんな尾崎の前に、清水恵が起き上がったのではないかと考えていた結城夏野が現れ、質問を投げかけます。その問答の中で、尾崎は、患者の腕に残された2つの傷跡、病気が貧血から始まり、輸血によって改善したこと、村では今でも土葬の習慣が残っていることなど、いくつかの奇妙な共通点に気づき始めます。そして、不可解な転居や転職の正体は、吸血した者の命令によって行われているのではないかという、驚くべき可能性を考え始めます。

荒唐無稽な話に聞こえた室井は、思わず「それはダメだ」と呟きます。しかし、その直後、尾崎と室井の目の前に、亡くなったはずの安森奈緒が現れます。奈緒の出現は、2人に、村で起こっている異変が、人間以外の何者かによるものであることを、決定的に突きつけます。

3巻では、村人たちの中にも、不可解な事件の犯人は兼正が原因ではないかと考える人が、口には出さずとも増えています。しかし、恐怖と疑念は、まだ表面化することなく、村全体を覆い隠しているのです。

 

4巻あらすじ

4巻では、尾崎敏夫の手によって尾崎医院に隔離された安森節子が、徐々に回復に向かっていました。節子の証言によれば、夢の中に安森奈緒が現れたとのことでした。この奇妙な夢は、村を覆う異変が、単なる病気ではないことを示唆しています。

夜になり、尾崎医院では尾崎と室井静信が警戒を強めていました。しかし、突如、尾崎医院は吸血鬼たちの手によって停電に見舞われます。外には、死んだはずの安森正雄と安森奈緒の姿がありました。室井が以前から考えていた通り、吸血鬼は招待されていない建物には入れないようでした。しかし、辰巳は例外であり、尾崎医院に侵入してきます。

一方、結城夏野と田中昭は、起き上がりと遭遇し、戦闘になります。倒した起き上がりの体温を確かめた2人は、起き上がりが動いてはいるものの、結城がスコップで殴るかなり以前から死んでいたことを確認します。この事実は、起き上がりが死体として蘇っていることを示唆しています。

部屋に戻った結城は、起き上がりによる襲撃に警戒を強めます。しかし、結城の襲撃には、結城と親しかった武藤徹、そして清水恵が現れます。辰巳と恵に挟まれた結城は、2人に気を取られている隙に、背後から現れた徹に噛まれてしまうのでした。

4巻では、吸血鬼の存在がより明確になり、尾崎医院が襲撃されるなど、物語は急展開を見せます。また、結城が徹に噛まれるという衝撃的な展開も描かれ、物語はさらなる混乱と恐怖へと突き進んでいきます。

 

5巻あらすじ

5巻では、尾崎敏夫の治療の甲斐あって回復に向かっていた安森節子が、吸血鬼の襲撃によって遂に命を落としてしまいます。節子の死は、村人たちに、村で起こっている異変が、もはや個人の問題ではなく、村全体を脅かす危機であることを強く認識させます。

村人たちは尾崎を呼び出し、次々と起こる不可解な出来事が伝染病なのかと尋ねますが、尾崎は、吸血鬼の仕業だと話すのはまだ時期が早いと考え、言葉を濁します。しかし、尾崎自身も、村で起こっている異変が、吸血鬼によるものである可能性を強く感じ始めていました。

そこで、尾崎は、吸血鬼の正体を確かめるため、節子の墓を暴こうと考え、スコップを握り節子の墓の前に立ちます。しかし、室井静信が現れ、尾崎を制止します。

ここで、室井のバックストーリーが語られます。室井は、度々彼の前に現れていた兼正の住人、桐敷沙子が吸血鬼ではないかと疑い、沙子に直接そのことを告げます。室井の問いかけに対し、沙子はどのような反応を示すのでしょうか。

一方、村で霊能力を持っているとされる伊藤郁美も、独自に兼正が諸悪の根源であることに辿り着きます。郁美は、村人たちに兼正は起き上がりだと触れ回りますが、全く信用されません。しかし、一部の村人は、「桐敷家は昼間現れていない」という確かな事実があったため、郁美の言うことを信用し、村人を引き連れて兼正へ乗り込むこととなります。

桐敷家の人々は、郁美の呼びかけに応じ、家の外へと現れます。村人たちは、桐敷家の人々が陽光の下に現れたことに驚き、彼らが起き上がりではないかもしれないという結論に至ります。しかし、尾崎は、桐敷家の人々が陽光の下に現れたことに、何か不自然なものを感じていました。

5巻では、室井と沙子の関係がより深く掘り下げられ、伊藤郁美を中心とした村人たちの動きも活発になります。そして、物語は、吸血鬼の正体を巡る、より複雑な展開へと進んでいきます。

 

6巻あらすじ

6巻では、かつて親友同士であった武藤徹と結城夏野の対比が描かれます。屍鬼の存在にいち早く気づき、村の異変に立ち向かおうとした夏野は、彼を慕っていた徹によって命を奪われてしまいます。この悲劇的な出来事は、屍鬼による支配が、人間関係をいかに残酷に破壊するかを象徴しています。

村人たちの間にも、徐々に変化が現れ始めます。尾崎敏夫が患者の家を訪れると、彼らは入院を頑なに拒否します。その口調は、まるで誰かに言わされているかのように、感情がなく棒読みでした。この異様な光景は、屍鬼による支配が、村人たちの心を蝕み始めていることを示唆しています。

尾崎と室井静信の家族にも、異変が起こります。尾崎の妻、尾崎恭子は吸血の症状で倒れ、寝たきりの室井の父、室井信明は、普段交流のない安森徳次郎の見舞いに行くと主張し、強引に彼の家を訪れます。静信にとって、二人の間に接点は見当たりませんでしたが、信明は徳次郎の家でしばらく無言で彼を見つめた後、納得したように帰っていきました。

妻を失った尾崎は、恭子の遺体を使い、屍鬼に関する実験を始めます。恭子の体を縛り上げ、様々な薬品や攻撃を試した結果、屍鬼が驚異的な回復力を持っていることが判明します。この実験は、尾崎が屍鬼の弱点を見つけ、彼らに対抗するための手段を探るためのものでした。

尾崎が実験に没頭している間、村には新たな葬儀社と、桐敷家の担当医である江渕が開業した江渕クリニックが誕生します。これらの施設の登場は、村における屍鬼の影響力が拡大していることを示唆しています。

6巻では、屍鬼による支配が村全体に広がり、人間関係や村の構造が崩壊していく様子が描かれます。また、尾崎による実験は、屍鬼の謎を解き明かすための重要な手がかりとなります。

 

7巻あらすじ

7巻では、物語の核心に迫る重要な情報が明かされます。それは、屍鬼の開祖とも言える桐敷沙子の過去です。

まだ土葬が一般的だった大昔、沙子は外国から来た屍鬼によって屍鬼に変えられてしまいます。彼女は、屋敷にあった蔵に閉じ込められますが、裕福な沙子の家は、食事を運ぶ使用人を次々と雇い、沙子に与えます。蔵には大量の蔵書があり、それらを読み解いた沙子は、自分がどういう生き物になったのかを理解します。そして、蔵から脱出しますが、両親は既に屋敷を離れた後でした。

それから沙子は、両親を探し続けますが、両親が生きているはずもないほど長い年月が経過し、現代に至ります。この過去の描写は、沙子が屍鬼となった経緯だけでなく、彼女の孤独や悲しみを深く掘り下げています。

一方、尾崎敏夫は村の異変を調査するため、村の役場を訪れます。そこで彼は、夜にも関わらず役場が開いており、利用客もいるという異様な光景を目にします。実は、転出届や死亡届など、外部に村が屍鬼に侵されていることを隠蔽するため、役場の職員たちは屍鬼に入れ替わっていたのです。

村人たちは徐々に屍鬼へと入れ替わり、空き家となった家には夜になると屍鬼が住み始めます。尾崎は、村の中で完全に孤立してしまいます。この状況は、村全体が屍鬼の支配下に置かれ、人間が生き残るのが困難になっていることを示しています。

7巻では、沙子の過去が明かされることで、屍鬼の起源や彼女の目的がより深く理解できます。また、尾崎が村で孤立していく様子は、物語の緊張感を高め、今後の展開への期待感を煽ります。

 

8巻あらすじ

8巻では、屍鬼による村の侵食がさらに進み、外場村はほぼ屍鬼の支配下に置かれます。兼正に住む桐敷沙子たちの目的は、夜に活動する屍鬼たちが安全に暮らせる場所を作ること。彼らにとって人間は単なる食料であり、罪悪感は一切ありません。むしろ、彼らは人間こそが害悪であり敵だと考えています。

村人のほとんどが死ぬか屍鬼と化し、物語は非常に陰惨な展開を迎えます。これまでお馴染みだった登場人物たちが次々と屍鬼に堕ちていく様は、読者に深い悲しみと絶望感を与えます。真実に近づこうとする人間たちは狂気に蝕まれ、一方、明るく陽気な千鶴の存在が、読者にわずかな安らぎを与えます。しかし、このような感情の揺さぶりこそが、本作の魅力であり、どちらが狂っているのか、読者の感覚を麻痺させていきます。

そんな中、尾崎敏夫は夏野と協力し、屍鬼に対抗するための作戦を練り始めます。しかし、辰巳の圧倒的な力により、状況は依然として厳しいものでした。

物語が進むにつれて、千鶴の人柄が徐々に描かれ始めます。彼女は本来、明るく可愛らしい性格であり、その人間らしい一面が垣間見える度に、読者は彼女の悲劇的な運命を予感します。

一方、尾崎は千鶴を祭りへと誘い出そうと画策します。彼の目的は、千鶴を村人たちの前に晒し、屍鬼の存在を証明することでした。そして、村人たちによる屍鬼狩りが始まろうとしています。

8巻は、物語がクライマックスへと向かう重要な転換点であり、読者は屍鬼と人間の壮絶な戦いの行方に目が離せません。

 

9巻あらすじ

9巻では、尾崎敏夫が計画を実行に移し、人間による屍鬼への反撃が始まります。尾崎は、デートを装って桐敷千鶴を宗教行事である神楽へと誘い出します。そして、千鶴が起き上がりであることを村人たちの前で証明し、屍鬼狩りを開始します。

これまで恐怖の対象であった屍鬼たちが、静かなる異形として描かれる一方、反撃する人間たちの暴力性が際立ち、どちらが狂っているのか、正義と悪の境界線が曖昧になっていきます。旧約聖書のカインとアベルのエピソードも交え、物語は混沌とした様相を呈していきます。

人間側の反撃が開始されるものの、屍鬼の倒し方が杭打ちであるため、その凄惨な光景に耐えきれず、離脱する村人も現れます。しかし、屍鬼たちの事情が明らかになるにつれて、彼らを単純に悪役と断じることもできなくなり、読者は複雑な感情を抱きます。

一方、室井静信は沙子と共に地下室へと降り、独自に行動を開始します。彼の行動は、尾崎とは異なる方向へ進んでいることを示唆しています。

物語は、屍鬼と人間の全面戦争へと突入し、血飛沫が飛び交う凄惨な光景が描かれます。かおりが父親をバットや鶴嘴で攻撃するシーンは、人間の狂気を象徴しています。また、屍鬼となっても家族を殺せない武藤徹の父親や、理性を保とうとする律子の姿は、人間の複雑な感情を浮き彫りにします。

9巻は、物語がクライマックスへと向かう重要な巻であり、読者は屍鬼と人間の壮絶な戦いの行方に目が離せません。

 

10巻あらすじ

10巻では、尾崎敏夫を筆頭に、人間たちが屍鬼たちへの反撃を開始します。振り下ろされる杭と槌、飛び散る大量の返り血と断末魔の絶叫、そして無造作に積み上げられる屍鬼の死骸。明るい歌声が響き渡る地下のパイプラインでの駆逐風景は、まさに狂気の沙汰でした。狂気と正気、正義と悪、何もかもがひっくり返り、混沌とした状況が描かれます。藤崎竜のライトでポップなキャラクターデザインがなければ、あまりの陰惨さに読むのが辛かったかもしれません。

屍鬼を倒すという大義名分を掲げた人間側の残虐さが際立ち、物語は戦争の様相を呈します。これまで圧倒的優勢だったはずの屍鬼たちも、弱点を把握されてしまうと、人間たちの無慈悲な攻撃に抵抗できません。

この日、村では悲鳴が絶えることがなく、屍鬼狩りは凄惨を極めます。屍鬼になった母親を庇う矢野家のエピソードは、人間の悲しい性を描き出し、告げ口をした前田元子への嫌悪感を増幅させます。

人間たちの感覚も徐々に麻痺し、狂気に蝕まれていきます。大川さんの異様なまでの行動は、人間の狂気を象徴しています。

屍鬼とはいえ、痛みを感じ、人間の姿と変わらない彼らが「痛い」と泣き叫びながら殺されていく場面は、読者に強烈な印象を与えます。

数か月前まで仲の良かった隣人、友人、そして家族だった人たちの叫び声を聞かないように、明るい曲を大声で歌いながら殺しまわっていく様子は、まさに狂気の沙汰です。

屍鬼狩りが本格化し、酒屋の親父さんの暴走気味の勢いは凄まじく、家の中に隠れていた屍鬼やパイプラインに潜んでいた屍鬼たちも次々と狩られていきます。人間側の優勢が確立されつつある中、物語は最終巻へと向かいます。

 

11巻あらすじ

11巻は、閉ざされた村での人間と屍鬼の戦いの最終巻です。屍鬼狩りが進むにつれ、人間側の狂気が際立ち、正義と悪の境界線が曖昧になっていきます。尾崎敏夫と室井静信は袂を分かち、それぞれ異なる道を進みます。沙子と静信は旅立ち、村は炎に包まれ、惨劇は終焉を迎えます。

静信の行動は最後まで読者に理解し難く、彼の心理は複雑でした。人間側の選択は辛く、村人たちは離散しますが、田中姉弟が生き残ったことは救いでした。尾崎の「…やはり負けたのかな。おれは」という言葉は、彼の心情を象徴しています。

最終巻では、「それでも生きる」というテーマが描かれ、沙子と静信の旅路、村の炎上、人間の狂気、そして静信の変貌が描かれます。読者は、人間の本質や正義について考えさせられ、物語の余韻に浸ります。

 

登場人物一覧

尾崎 敏夫(おざき としお)

外場村唯一の病院「尾崎医院」の院長を務める尾崎敏夫は、32歳の若き医師です。冷静沈着で論理的な思考を持ち、村で発生する異変にいち早く気づき、その原因を突き止めようと奔走します。しかし、目的のためには手段を選ばない一面もあり、時には周囲と対立することも。特に、幼馴染の室井静信とは、屍鬼の存在を巡って激しく対立します。村人たちを屍鬼の脅威から守るため、屍鬼の生態を解明しようと、自ら実験台になることも厭いません。その過程で、妻である恭子を実験材料にしてしまいます。彼の行動は、時に倫理的な問題を孕みながらも、村を救うという強い意志に基づいています。

 

尾崎恭子

敏夫の妻ですが、山村での生活を嫌い溝辺町の市街地でアンティークショップを経営。同町にマンションを借りて生活しています。

 

室井 静信(むろい せいしん)

外場村の寺院の息子である室井静信は、32歳の僧侶であり、小説家でもあります。穏やかで心優しい性格ですが、繊細で理想主義的な一面も持ち合わせています。村で起こる異変に疑問を持ち、尾崎敏夫とともに調査を進める中で、屍鬼の存在を知ります。しかし、彼は屍鬼を一方的に敵と見做すのではなく、彼らの苦悩や悲しみに寄り添おうとします。特に、桐敷沙子との出会いは、彼の心を大きく揺さぶります。屍鬼と人間の共存を模索する彼の行動は、周囲からは理解されにくいものでしたが、彼自身の信念に基づくものでした。

 

結城 夏野(ゆうき なつの)

都会から外場村に引っ越してきた結城夏野は、15歳の高校生です。都会育ちのため、村の閉鎖的な雰囲気に馴染めず、常に孤独を感じています。クールでドライな性格ですが、正義感が強く、屍鬼の脅威に立ち向かおうとします。当初は、村人たちとの間に距離がありましたが、屍鬼との戦いを通して、徐々に村に溶け込んでいきます。しかし、その戦いの中で、彼は自らも屍鬼、人狼となり、運命に翻弄されていきます。

 

武藤 徹(むとう とおる)

夏野の友人である武藤徹は、20歳の青年です。優しく穏やかな性格で、夏野を実の弟のように可愛がっています。しかし、彼もまた、屍鬼の犠牲者となり、その運命に翻弄されます。屍鬼となった彼は、人間としての良心と、屍鬼としての本能の間で苦悩し、葛藤します。その苦しみは、彼を徐々に追い詰め、悲劇的な結末へと導いていきます。

 

村迫 正雄(むらさこ まさお)

高校2年生の村迫正雄は、兄弟と年が離れていたため甘やかされて育ち、自己顕示欲が強く身勝手で底意地の悪い性格です。よそ者であるためか夏野を毛嫌いしています。屍鬼となり、起き上がったことを良しとしており、山入内では恵と共に行動することが多いです。

 

清水 恵(しみず めぐみ)

15歳の高校1年生の清水恵は、都会に対して過剰なまでの憧れを持っており、外場村の風習や生活をひどく嫌っています。都会育ちのクラスメイトである夏野に一方的な好意を抱いていますが、相手にされていません。屍鬼となり、起き上がったことを良しとしており、夏野と共闘しているかおりに対する嫉妬心から、かおりの父親を襲い屍鬼にしてしまいます。

 

田中 かおり(たなか かおり)

中学校3年生の田中かおりは、昭の姉です。清水恵とは幼馴染みで、親友だと思い慕っています。怖がりながらも、起き上がりのことを弟とともに調べようとするなど、いざというときは強い意志を見せます。屍鬼化した父親を怒り任せで殺害した後、清水恵の本性を知り、彼女に幻滅し、呆然としながら村を去っていきました。

 

田中 昭(たなか あきら)

中学校1年生の田中昭は、かおりの弟です。夏野を実の兄のように慕っています。好奇心旺盛で生意気な性格ですが、困ったときには姉を頼ります。屍鬼化した前田巌の餌にされ死亡し、その死は村人たちの屍鬼狩りの意志を強固なものにしました。

 

外場村の人々

外場村の住人たちは、閉鎖的な村社会の中で、古くからの因習を守りながら生活しています。しかし、村で起こる異変は、彼らの日常を大きく変えていきます。屍鬼の脅威に晒された彼らは、恐怖と混乱の中で、人間としての本性を露わにしていきます。その行動は、時に残酷で非情なものとなりますが、それもまた、生き残るための必死の抵抗でした。

 

登場人物(兼正)

桐敷 沙子(きりしき すなこ)

桐敷家の娘として外場村にやってきた桐敷沙子は、13歳と名乗る少女ですが、その実年齢は数百歳に及ぶ屍鬼です。幼い外見とは裏腹に、聡明で豊かな語彙を持ち、周囲を魅了する不思議な力を持っています。しかし、その内面には、孤独と悲しみが深く刻まれており、人間との共存を願いながらも、その願いが叶わないことを悟っています。彼女は、村を屍鬼の住処とすることを計画し、そのために様々な策略を巡らせます。その行動は、人間たちとの間に深い溝を生み出すことになりますが、彼女自身もまた、その孤独に苦しんでいました。

 

桐敷 正志郎(きりしき せいしろう)

桐敷家の当主であり、沙子の父とされる正志郎は、元会社社長で40代半ばの男性であり、過去に両親を殺害し、屍鬼に憧憬を抱き、沙子たちを支援する一方で、自身が屍鬼になれないことを悟りながらも、人間として彼女たちを支え続け、屍鬼狩りの中心人物である敏夫を襲撃するも失敗し、村人たちの反撃により命を落としました。

 

桐敷 千鶴(きりしき ちづる)

沙子の母とされる千鶴は、20代後半から30代前半の外見を持つ美しい女性ですが、実年齢は不明であり、SLEを患っていると公言しつつも、実際は戦中に蘇生した屍鬼であり、妖艶な言動で男性を誘惑し、外場での生活に飽き、屍鬼に抵抗する敏夫を狙うも、彼の策略により神社で公開処刑され、村人たちの屍鬼狩りのきっかけを作りました。

 

辰巳(たつみ)

桐敷家の使用人である辰巳は、20代の外見を持つ男性ですが、実年齢は不明であり、沙子に血を吸われ人狼となり、沙子を支え続け、屍鬼たちの指導者的立場であり、沙子の計画が破綻することを理解しつつも、虚無主義者として彼女に従っています。

 

江渕(えぶち)

桐敷家の医者である江渕は、初老の男性の屍鬼であり、沙子の家庭教師でもあり、村人に発見され、暴徒化した村人から逃れる為にパイプラインへと逃げ込むも、頭部を割られ死亡しました。

 

倉橋 佳枝(くらはし よしえ)

桐敷家の使用人である佳枝は、中年女性の人狼であり、山入を任されており、漫画版では正志郎に銃撃され、機能障害を起こした後、自爆して死亡しました。

 

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まとめ

小野不由美による原作を、藤崎竜が圧倒的な画力でコミカライズした『屍鬼』は、閉鎖的な村を舞台に、人間と屍鬼の壮絶な戦いを描いたサスペンス作品です。

物語は、静かな村に突如として現れた屍鬼たちと、村人たちの間に繰り広げられる、血塗られた戦いを描いています。屍鬼の脅威に晒された村人たちは、次第に狂気に蝕まれ、人間性を失っていきます。一方、屍鬼たちもまた、生き残るために必死であり、その姿は哀愁を帯びています。

本作の魅力は、善悪の境界線が曖昧な、複雑な人間ドラマにあります。極限状態に追い込まれた人間たちの業、そして儚い存在である屍鬼たちの悲哀が、読者の心を深く揺さぶります。

藤崎竜による、美麗でありながらも時にグロテスクな描写は、物語の陰惨な雰囲気を際立たせ、読者を圧倒します。特に、屍鬼狩りのシーンや、村が炎に包まれるラストシーンは、強烈な印象を残します。

また、本作は、人間のエゴや大衆心理の恐ろしさも描いています。屍鬼への恐怖から、罪なき人々を攻撃する村人たちの姿は、人間の本質を問いかけます。

是非ご覧になってください!

 

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