人間と虫が融合したような異形の生命体。
そして、どこか人間離れした、サイコパスチックな少年。
この二人の出会いから始まる、ホラーテイストと猟奇的な雰囲気をまといながらも、不思議な魅力で多くの読者を引きつけた漫画『オゲハ』をご存知でしょうか?
2015年から2016年にかけて全3巻が刊行され、その独特の世界観とストーリーで話題となった本作。
この記事では、『オゲハ』のあらすじをネタバレを含めて詳しくご紹介し、本作を読んだ人たちの感想や、物語の結末について考察していきます。
異形生命体の少女オゲハと少年キジの運命がどのように交錯し、変化していくのか――。最終回までのネタバレを多く含みますので、未読の方は十分ご注意ください。
また、本作にはリアルな虫や猟奇的な描写が登場します。苦手な方は閲覧にご注意ください。
『オゲハ』とは? 異彩を放つ作品世界
漫画『オゲハ』は、Oimo先生によって描かれた全3巻の作品です。
2015年にKADOKAWAから出版され、物語は完結しています。
本作の最大の魅力は、その独特な世界観と雰囲気でしょう。
人間と異形の生命体の交流というテーマを、単なるファンタジーとしてではなく、ホラーや猟奇的なテイストを織り交ぜながら描いています。
また、オゲハの姿が非常に緻密かつリアルに描かれているため、「虫が苦手だと読むのに勇気がいる」といった声も多く聞かれます。しかし、虫嫌いというだけで本作を敬遠してしまうのは、あまりにもったいないと言われるほどの面白さが詰まっている作品です。
人間の心の機微や、生と死といった重いテーマにも触れており、読後に深い余韻を残す作品として、現在でも国内外で評価されています。
物語を紡ぐ二人の主人公
『オゲハ』の物語は、主に二人のキャラクターを中心に展開していきます。
サイコパスチックな少年、キジ
一人目は、中学校に通うごく普通の少年、木島智(キジ)です。
中学三年生で受験を控えていますが、その内面は「ごく普通」とはかけ離れています。
表情が乏しく何を考えているか分かりにくい、大抵のことに無頓着で他人の話にも興味を持たない、といった描写から、どこか人間らしさが欠如している、サイコパスチックな人物像が描かれています。
物語冒頭の、ある出来事に対する彼の反応や行動は、読者に強烈なインパクトを与えます。
異形の生命体の少女、オゲハ
もう一人は、本作のもう一人の主人公であり、メインヒロインとも言える謎の生命体、オゲハです。
ある日、森の中に落ちてきた大きな卵の中に眠っていました。
上半身は人間の少女のような姿をしていますが、下半身は完全に虫、両腕の上腕から下は美しい蝶々の羽になっています。
基本的には大人しく人懐こい性格ですが、急に人間の世界に放り出されたためか、何事にも興味津々で、同時に警戒心が薄い危うさも持っています。
キジとオゲハ。
一方は人間の形をしながら人間らしさが希薄な少年、もう一方は異形の姿をしながら人間的な感情を見せる生命体。
この対照的な二人の関係性の変化が、『オゲハ』の物語の大きな見どころとなっています。
物語には他にもキジの家族や友人、学校の教師など様々なキャラクターが登場しますが、基本的にはこの二人のやり取りを中心にストーリーが進んでいきます。
猟奇的な出会いから始まる共同生活(あらすじネタバレ①)
ここからは『オゲハ』の物語の核心に触れるネタバレを含みます。
物語は、キジがある夜、自宅の窓から公園の森に何かが落下するのを目撃するところから始まります。
光の尾を引いて落ちていった様子に興味を引かれたキジは、森へと向かいます。
そこで彼が見つけたのは、巨大な卵。その中には、光り輝く少女のような生命体が眠っていました。
その異様な光景を目にしたキジの反応は、「おもしれー」という好奇心。
そして、彼は近くにあった木の棒で躊躇なく卵を切り裂き、中の生命体――オゲハを無理矢理引きずり出してしまうのです。
下半身が虫であるその異形の姿を見ても、キジは嫌悪感を示すどころか、さらに興味を深め、オゲハを自宅マンションへと連れ帰ってしまいます。
キジは、連れ帰った生命体にオゲハと名付け、狭い段ボール箱に入れて飼い始めます。
無理矢理引きずり出され、環境が激変したオゲハは、キジのいない間に逃げ出そうとしますが、マンションの廊下でキジに捕まり連れ戻されてしまいます。
ろくに食べ物も水も与えられないオゲハは、お腹を空かせ、箱の中で寂しく泣くのでした。
一方、オゲハがいた卵の周辺では、芋虫のような異形の生命体たちがうろついていました。
彼らはオゲハを「種(インフェルノ)」と呼び、オゲハがいなくなったことを察知し、人間を操るなどして必死にオゲハの行方を探し始めます。
彼らの追跡は、少しずつキジとオゲハのもとへと迫っていくのでした。
家出、すれ違い、そして小さな変化(あらすじネタバレ②)
キジから適切な餌を貰えないオゲハは、次第に弱っていきます。
そんなオゲハの様子を見て、キジは学校の生物教師に動物の飼育について質問します。
教師からの「エサちゃんとあげてる?毎日」という言葉で、オゲハに餌をやっていないことにようやく気づいたキジは、家に帰って雑な態度ながらもオゲハに人間の食べ物を与えます。
これがきっかけで、オゲハは人間の食べ物に強く惹かれるようになり、食欲も増していきます。
そんな中、キジに塾から電話がかかってきます。中学三年生で受験生であるにもかかわらず、キジは勉強に身が入らず、塾にも行っていませんでした。
塾の講師が母親に連絡したことを知ったキジは、母親にばれることを恐れ、「殺される」と言ってオゲハを連れて家出を決行します。
自転車の前カゴにオゲハを乗せて走り出したキジは、どこか遠くへ行こうと考えます。
しかし、コンビニに立ち寄った際、オゲハを探す生命体が近くまで来ていることにキジは気づきません。
家出の途中、道端の石にタイヤを取られて自転車が横転。ペダルが壊れ、携帯の充電も切れたことで、キジは不安と苛立ちを募らせます。
彼は無表情のままオゲハに別れを告げ、その場を去ろうとします。
しかし、後を追いかけてくるオゲハの姿を見て、考え直したキジはオゲハのもとへ戻ります。
家出が無謀だったと悟った二人は、河原で肉まんを食べながら休憩します。
キジはオゲハに飛ぶことを要求しますが、オゲハは上手く飛び上がれません。
河原を転げ落ちたオゲハを見下ろすキジに対し、オゲハの心にはキジへの情が芽生え、彼が無くてはならない存在となっていきます。
最初とは違った「ドキドキ」を抱え始めたオゲハと、少しだけ変化を見せたキジ。二人はマンションへ帰ることを決めます。
真実の露呈と追いつめられる二人(あらすじネタバレ③)
家に戻ったキジは、再び日常を送ります。学校で生物教師に蝶の飛び方について質問し、羽化に失敗した蝶は飛べずに死んでしまうという話を聞きます。
それを聞いたキジは後日オゲハを学校へ持って行くことを約束します。
学校で先生を待つ間、キジの塾の時間が過ぎてしまいます。時計を見て「はやく死なねーかな、オレ」と呟くキジ。その言葉を聞いたオゲハは、キジが死んでしまうことが嫌だと大粒の涙を流します。オゲハのその純粋な悲しみに対し、キジは「死ぬのお前なのに」と漏らし、どこか諦めたように笑うのでした。
その頃、オゲハを探す生命体は着々とキジに迫っていました。
人間の体を操る彼らは、オゲハの匂いを辿り、キジの友人から聞き込みをするなどして、ついにキジのマンションへとたどり着きます。
オゲハは、ある夜、自分に近付く黒い影の夢を見ます。
それは、卵を引き裂き、自分を捕まえた恐ろしい存在――現実でも無意識に触手を動かすほどの、彼女にとってのトラウマでした。
生命体はキジの父親を操ってオゲハと再会します。彼らはオゲハの姿を見て涙を流し、再会と、人間によって惨めな姿にされているオゲハを憐れみます。
彼らは人間に攫われたと思っていますが、オゲハはキジに助けられていると思っていました。
しかし、オゲハが少しずつ記憶を遡っていくと、夢の中で見たあの影、自分を卵から引きずり出した存在の正体が、実はキジであったことに気づいてしまうのです。
自分を救ってくれたと思っていた人物が、自分をこの状況に引き込んだ張本人だったという衝撃的な真実を知ったオゲハは、心の整理がつかないまま家を飛び出し、路上での生活を強いられます。
オゲハがいなくなり、彼女のことを気にかけながらも待つことしかできないキジ。
そんな中、友人の猫が死んでしまったと知ったキジは、生物が死期が近付くと姿をくらませることがあると知り、初めてオゲハが死んでしまったのではないか、と考えます。
身近な死を体感したことで、ただ待っているだけではいられなくなったキジは、自転車でオゲハを探し始めます。
最終章:二人の選択と結末(あらすじネタバレ④ – 最終回)
キジに真実を知られ、家を飛び出したオゲハは、自分を探していた生命体と行動を共にします。
最終回では、生命体の本来の目的が明らかになります。
彼らは繁殖を目的にこの地に降り立った異星の生命体であり、オゲハをメスとして、たくさんの卵を産ませて地上に植え付けていきます。
卵を産み、ぐったりと衰弱していくオゲハのもとに、必死で自分を探すキジの呼ぶ声が聞こえてきます。
人間たちに翻弄され、何を信用するべきか分からなくなっていたオゲハの心は、それでも自分を探し続けるキジの存在を見て揺れ動きます。
キジが自分を攫った人間であることを知っていながら、オゲハは生命体のもとを離れ、キジのもとへ再び向かう決断をします。
しかし、それを止めようとする生命体はキジに攻撃を仕掛けます。
オゲハは、全てを終わらせるために、そしてキジを守るために立ち向かいます。
彼女は、生命体の目的であった、産み付けられた卵を次々と破壊していきます。
こうして、異形の生命体による地球侵略の危機は去り、オゲハとキジは再び日常へと戻っていくのでした。
オゲハとキジのその後
最終回後の二人の関係性には変化が見られます。
物語の序盤ではオゲハへの扱いが粗雑だったキジも、一連の出来事を経て、少し思いやりを感じさせる言動をするようになります。
一緒にゲームをしたり、公園に出かけたりする姿が描かれ、二人はこれからも共に暮らしていくことが示唆されます。
キジの中にまだどこか人間離れしたサイコパス感は残っていますが、その代わりにオゲハの方が人間的な感情や行動を見せるようになり、人間に近付いているように感じられます。
ホラーテイストで始まった本作ですが、最終的には二人が共に生きる道を選び、穏やかな日常へと戻っていくハッピーエンドで幕を閉じました。
『オゲハ』を読んだファンの感想と評価
独特の世界観と衝撃的な描写で話題となった『オゲハ』を読んだファンからは、様々な感想が寄せられています。
キジのサイコパス感がクセになる?
多くの読者が言及するのが、主人公・キジの人物像です。
表情に乏しく、他者への無関心や倫理観の欠如を感じさせる言動から、「サイコパスチックだ」「怖い」といった感想が多く聞かれました。
しかし、単に怖いだけでなく、彼の常識に囚われない視点や、オゲハとの関わりの中で見せる小さな変化に魅力を感じる、という読者も多いようです。
彼の予測不能な行動が、物語に緊張感と独特の面白さをもたらしていると言えるでしょう。
虫が苦手でも「オゲハがかわいい」
本作を語る上で避けて通れないのが、オゲハのリアルな虫の描写です。
その緻密な絵柄から、「虫が苦手で読むのに勇気がいる」「見るのが辛い場面もある」といった正直な感想も見られます。
しかし、多くの読者が最終的にたどり着くのは、「それでもオゲハがかわいい」という感情です。
異形の姿でありながら、お腹を空かせたり、キジの言葉に涙したり、彼を信じようとしたりする人間的な感情を見せるオゲハの姿に、次第に心を奪われていく読者が多いようです。
「虫は苦手だけど、オゲハがかわいくて」「ストーリーが気になって読んでしまう」といった声からは、オゲハというキャラクターの持つ特別な魅力と、物語の中毒性がうかがえます。
「怖い…けど読んでしまう」独特の雰囲気
『オゲハ』全体に漂う、ホラーで猟奇的な雰囲気も、読者の間で意見が分かれるポイントです。
異形の生命体や、人間を操る描写など、不気味さや怖さを感じるという感想は多く聞かれます。
しかし、単に怖いだけでなく、「なぜか読んでしまう」「目が離せない」といった、一種の中毒性や惹きつける力があるという感想も多数寄せられています。
キジとオゲハという対照的な存在の奇妙な共同生活や、先の読めないストーリー展開が、読者を作品世界へと引き込んでいくのでしょう。
怖いもの見たさ、不気味さの中に潜む二人の関係性の変化への興味など、様々な感情が読者を本作へと駆り立てていると考えられます。
まとめ:異形と人間、そして見つけた二人の「生き方」
Oimo先生による漫画『オゲハ』は、異形の生命体と人間の少年の出会いを、ホラーや猟奇的なテイストを交えて描いた独特の作品です。
リアルな虫の描写や、人間の倫理観から外れたキジの言動など、読む人を選ぶ部分は確かにありますが、それを乗り越えた先には、本作ならではの深い面白さと魅力が待っています。
「おもしれー」という純粋な好奇心からオゲハを連れ去ったキジと、異形の姿でありながら人間的な感情を見せるオゲハ。
二人の奇妙な共同生活は、周囲に迫る生命体の影、そして衝撃的な真実の露呈といった困難に直面します。
物語を通して、生と死、自己と他者、そして「人間らしさ」とは何か、といったテーマが問いかけられます。
様々な苦難を経て、キジはわずかながら人間的な変化を見せ、オゲハはキジを信じ、自らの意思で彼と共に生きる道を選びます。
最終回で二人が迎えたのは、奇妙ながらも穏やかな日常というハッピーエンドでした。
虫が苦手な方も、ホラーが好きな方も、ちょっと変わった人間ドラマに触れたい方も、ぜひこの機会に漫画『オゲハ』を手に取って、キジとオゲハ、二人の織りなす不思議な物語とその結末を見届けてみてはいかがでしょうか。
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