鬼頭莫宏が描くロボット漫画『ぼくらの』をご存知でしょうか。
「乗ったら死んでしまうロボット・ジアース」。
地球を守るためのパイロットとして選ばれたのは、年端もいかない子供たちでした。
過酷で壮大な戦いの結末はどうなるのか……。
今回は、そんな『ぼくらの』の物語を最終巻まで徹底的にネタバレ解説していきます。
「鬱漫画の代表」とも呼ばれる本作の真の魅力は、一体どこにあるのでしょうか?
この記事を読めば、その読後感が単なる「鬱」ではない理由にきっと気づけるはずです。
漫画『ぼくらの』とは? ロボットに乗り戦う少年少女の群像劇
まずは、漫画『ぼくらの』の基本的な情報と、物語の根幹に触れていきましょう。
衝撃の始まり、そして「鬱漫画」と呼ばれる理由
『ぼくらの』は、漫画家・鬼頭莫宏が手掛けるSFロボット漫画です。
2007年にはアニメ化もされ、主題歌『アンインストール』と共にその名が広く知られるようになりました。
物語は、夏休みの自然学校に集まった15人の少年少女が、海岸沿いの洞窟で謎の青年ココペリと出会うところから始まります。
ココペリは彼らを「巨大ロボットに乗って敵を倒すゲーム」に誘い、子供たちは興味本位で「契約」を結んでしまいます。
しかし、そのゲームには残酷なルールがありました。
パイロットになれば、勝っても負けても、戦闘終了後に必ず命を落とすというものです。
この衝撃的な設定と、未来ある少年少女たちが次々と死んでいく悲惨なストーリーから、『ぼくらの』は「鬱漫画の代表」と呼ばれるようになりました。
しかし、多くの読者が語るのは、単なる鬱だけではない「人間の生き様を濃密に描いた傑作」という側面です。
本作は、読者の精神を深く抉るようなハードなストーリーに定評のある鬼頭莫宏先生の作品の中でも、特にその世界観と設定、そしてキャラクターのリアリティが高い評価を得ています。
作品に触れた読者からは、「トラウマになった」という感想も聞かれるほど、その重さは群を抜いています。
謎多きジアースとココペリ、そしてコエムシ
子供たちが搭乗する巨大ロボットジアースは、昆虫や甲殻類を思わせる黒い装甲に覆われた姿をしています。
地球上に存在するどの物質とも違う素材で構成されており、時速1,000kmで移動するほどのスピード、全身のあらゆる場所からレーザーを放つなど、その性能はあらゆる兵器を束ねても敵いません。
ジアースに初めて「Zearth(ジアース)」と名付けたのは、パイロットの一人であるマキでした。
そして、子供たちをジアースへと導いたのが、自らをココペリと名乗る謎の青年です。
彼は子供たちに「これはただのゲームだ」と嘘をつき、契約を結ばせ、チュートリアルの戦闘を見せた後に姿を消します。
実はココペリという名は偽名であり、前世界の最後のパイロットが次の世界で「ココペリ」として、新たなパイロットたちにルールと戦いを教える役目を担っているのです。
さらに、戦いのサポート役として子供たちに同行するのが、ユーモラスな見た目とは裏腹に、口が悪く残忍な性格のコエムシです。
彼もまた、前の世界のコエムシから役目を引き継ぎ、この世界にやってきた人間です。
このように、本作の登場人物たちは、壮大なスケールで繰り広げられる「世界と世界の戦い」という運命に翻弄されていきます。
ジアースが戦う相手は、実は自分たちの世界と少しだけ違う道を歩んできた平行世界なのです。
あまりにも平行世界が増えすぎたため、その剪定を目的として巨大兵器を用いた世界同士の戦いが行われることになったとされています。
この戦いを仕組んだものが何者なのかは明確には明かされませんが、神と呼ばれる存在であることが仄めかされています。
『ぼくらの』を彩るパイロットたちとその結末:全巻ネタバレ解説
『ぼくらの』には明確な主人公が存在せず、戦う順番に応じて一人ひとりにスポットが当たっていく群像劇の形をとっています。
ここでは、各巻で描かれるパイロットたちの戦いと、彼らが辿る結末をネタバレで紹介していきます。
1巻:ワクとコダマの戦い
契約を結んだ14人の中学生と、その場にいた小学生のカナを含めた15人。
下宿先の海に現れた黒いロボット・ジアースに、彼らはコエムシに呼ばれるまま乗り込みます。
最初のパイロットに選ばれたのは、サッカー好きの少年ワクでした。
彼はこれをゲームだと思い込み、ヒーローとして戦うことに燃えます。
達成感と共に悩みを振り切り勝利しますが、その直後、海に転落し死亡してしまいます。
検視の結果、ワクが水死する前にすでに命を落としていたことが判明し、この時点で物語の残酷なルールが暗示されました。
次に選ばれたのは、建築会社社長の息子コダマです。
傲慢な性格で、街の被害も顧みずにジアースを操縦します。
しかし、皮肉にも尊敬する父親を誤って踏み潰してしまい、その精神的ショックから勝利を収めるものの、自身も命を落とします。
何も知らずに死んでいくワク、そして自分の手で尊敬する父親を殺して死ぬコダマと、1巻から衝撃的な展開が続き、読者に大きなインパクトを与えます。
2巻:ダイチとナカマの戦い
コダマの死後、コエムシはジアースが生命力を使って動いていること、そして契約は途中で破棄できないことを明かします。
パイロットになれば死は確定しており、その運命からは逃れられないという事実に、少年少女たちは大きな衝撃を受けます。
しかし、次のパイロットは容赦なく決定してしまいます。
両親のいない少年ダイチは、一人で妹と弟たちを育てていました。
残される妹弟たちへの葛藤を抱えながらも、ジアースが戦いを放棄すれば地球自体がなくなってしまうことを知り、大切な家族を守るために戦うことを決意します。
彼は妹たちが行きたがっていた遊園地を守り、勝利を収め、その遺体はジアースの内部に隠されます。
次に選ばれたのは、正義感溢れる少女ナカマです。
売春婦の母親を持つことで差別を受けていた彼女は、規律を守ることで自己を保ってきました。
しかし、パイロットに選ばれたことをきっかけに、仲間たちの絆を深めるためのユニフォームを作るため、母の真似をしてお金を稼ぐことを決意します。
その過程で、ナカマは今まで恥ずかしいと思っていた母親の「堂々とした生き方」に気づき、母の心を受け継ぐかのような戦い方で勝利し、命を終えます。
この2巻では、子供たちが現状を受け入れるだけでなく、自らの意志で大切なものを守るために限られた命と向き合う姿が痛切に描かれ、読者に深い感動を与えます。
3巻:カコとチズの戦い
次のパイロットは、臆病な少年カコです。
彼の戦闘が始まる前、コモの父親である軍の一佐の口利きにより、パイロットたちは政府によって保護されることになります。
それぞれ陸軍、空軍、海軍からサポートがつくことになり、特に空軍の女性隊員である田中は、まるで母親のようにパイロットたちに接します。
しかし、戦いが始まると、軍の戦力では敵性怪獣に太刀打ちできず、あっという間に全滅してしまいます。
パニックになったカコは、いつもいじめていたキリエを意味もなく殴り続け、その状況に誰も手を出せない中、パイロット候補の少女チズが立ち上がり、カコをナイフで刺殺。
そのままジアースのパイロットを引き継ぎます。
チズはただ敵性ロボットを倒すだけでなく、街の一部を攻撃し始めます。
彼女の目的は、かつて信頼していたハタ先生に裏切られ、性的暴行を受けて妊娠してしまったチズが、その加担者である大人たちをジアースの力で葬ることでした。
周囲の制止も聞かず、最後の仇の一人、ハタ先生を捉えますが、ハタ先生はチズの姉と行動を共にしていたのでした……。
カコの悲惨な末路、そしてチズの衝撃的な過去が明かされる3巻は、物語の残虐性を決定づけます。
特にチズのエピソードは、パイロットの中でも誰よりも淡々としていた彼女が、カコの返り血を浴びながら平然とパイロットの役目を引き受ける姿に、鬼気迫るものを感じた読者も多かったでしょう。
チズの過去が明らかになった時、多くの読者が彼女に同情し、その復讐劇に心を揺さぶられました。
しかし、チズによってカコが殺され、パイロットが一人減ってしまったことで、ジアースのパイロット不足という手詰まり感はさらに加速していきます。
4巻:モジの戦い
戦いの最中、チズはハタ先生と自分の姉を発見します。
「自分を不幸にした先生を殺すからどいてほしい」と懇願するチズに対し、姉は「人を殺してはいけない」と諭します。
その言葉は、すでに多くの人を殺してしまったチズをさらに追い詰めるだけでした。
自分自身に失望しながらも、胎内に宿る子供に触れながら戦いに勝ち、チズは命を落とします。
戦いが終わり、パイロットたちが残りのパイロット数を示すジアースの光点を確認したところ、子供たちの中で一人、契約していない人間がいることが明らかになります。
それが誰なのか答えが出ないまま、補充のため、軍人の田中一尉と関一尉がジアースと契約することに。
ブリーフィングでは、田中が子供たちに軍が積極的に攻撃しないことを伝えます。
カコの戦いで軍の戦力が役に立たないことが判明したため当然の帰結ですが、子供たちは一層落ち込む結果となりました。
次のパイロットに選ばれたのは、冷静な少年モジです。
彼は、自分が死んだら病を患っている親友に心臓を移植してほしいと田中に頼みます。
始まったモジの戦いは、ジアースが敵に挟み込まれ、身動きが取れない絶体絶命の状況に陥ります。
攻撃も防御もできない中、モジがある奇策を思いついたところで次巻へと続きます。
軍の無力さが露呈し、さらに契約していない仲間がいることが明らかになる4巻では、ジアースのパイロットたちが孤立無援の状態に追い込まれていく様子が描かれます。
そして、ウシロとカナの歪な兄妹関係が少しずつ浮き彫りになり、今後の大きな伏線となっていく予感が漂います。
5巻:マキとキリエの戦い
絶体絶命のモジは、コクピットを切り離し、上空から敵の弱点にダイブするという方法を取りました。
あと一歩のところで直撃とはならず、あわや敗北かと思われたそのとき、味方の空軍の戦闘機が敵のコクピットに向けて特攻し、勝利を収めます。
次に選ばれたのは、もうすぐ弟が生まれる予定のマキです。
彼女は弟と、そして今まで育ててくれた義理の両親のために戦うことを決意していました。
父親から授かったミリタリー知識を武器に危なげなく勝利しますが、味方のはずの空軍機が攻撃してきたことに驚愕します。
そして、敵のコクピットを開いたマキは、そこに自分たちと寸分違わぬ人間たちがいること、そして彼らが自分たちと同じように椅子に座ってロボットを操縦していることを知ります。
ここで初めて、コエムシは、今戦っている地球は平行世界にある別の地球であり、ジアースとパイロットたちは、無数にある地球の未来の可能性を摘み取るために戦わされていることを明かします。
この事実に驚き、ショックを受けるパイロットたち。
凄まじい自己嫌悪を抱きながら敵のコクピットを破壊したマキは、自分たちの地球に帰還したとき、弟が誕生したことをジアースの力で察知します。
そして、妹のカナをいじめてばかりのウシロに、カナを守るために戦うことを願い、静かに命を閉じました。
次にパイロットとなったのは、いじめられっ子のキリエです。
彼は希死念慮を抱く従姉妹が苦しむ様を見て、自分が負ける(地球が消える)ことが従姉妹を救う術になるのではないかと考えますが……。
5巻でついに残酷な真実が明かされ、『ぼくらの』が「鬱漫画」と呼ばれる所以がここにあります。
戦わなければ自分の地球は死に、戦って勝っても他の地球の人々が死ぬという、中学生の子供たちに背負わせるにはあまりにも過酷な現実が突きつけられます。
また、前巻で戦力としては期待できないと判断された軍隊が、サポートとしては十分に役目を果たすことが明らかになり、彼らの役割にも注目が集まります。
6巻:コモの戦い
次のパイロットは、おとなしい性格の少年キリエです。
いじめられっ子のキリエは、人を殺すことができないと悩んでいました。
キリエの相談を受けた田中は、人間の命は他の生命の犠牲の上にあることを伝え、それを感謝した上で納得する生き方を選ぶように諭します。
決戦当日、キリエはジアースのコクピットを離れ、橋のように伸びたジアースの腕の上に立ちます。
戦うことよりも、自殺することを選んだのです。
それがキリエの下した決断ならと、止めない仲間たち。
しかし、相手のパイロットの少女もまたコクピットを降り、ロボットの手へと歩き、キリエに向かって無言で自らの手を差し伸べます。
その手には、生々しい自傷痕がありました。
それを見たキリエは、戦うことを決意します。
「生きている以上は、頑張らなきゃいけない。
自殺願望のある従姉妹にもそれを伝えてほしい」と仲間たちに言い残し、キリエは勝利しました。
次に選ばれたのは、軍人の父を持つ少女コモです。
しかし、コモの戦いの最中に、相手側のパイロットが逃げ出すという不測の事態が起こってしまいます。
逃げ出した男はこの地球のどこにいるか分からず、47時間以内にパイロットを倒さなければコモの敗北が決定してしまいます。
協議の結果、サポーターである軍人たちが出した作戦は、コモがジアースのパイロットであることをテレビを通じて世間に明かし、さらにピアノの演奏会を開くという不可解なものでした。
案の定、コモの家はジアースとの戦闘の被災者によって放火される事態に。
日本中が敵性怪獣との戦争の真実に驚く中、果たして消えた敵のパイロットを見つけ出すことができるのでしょうか。
6巻では、相手パイロットもまた戦いを望んでいなかったという、まさかの展開が続きます。
「私達は生まれながらにして、生命に対して業と責任を背負っているの。」
この田中の言葉は、『ぼくらの』という作品が伝えたいメッセージそのものではないかと、多くの読者が感じています。
戦うことを望む望まないに関わらず、生きている以上は戦わなければならないというメッセージは、キリエたちパイロットだけでなく、我々読者にも問いかけているようです。
そして、コモのエピソードを機に、世間にジアースの情報が公表され、子供たちの個人情報が暴かれるなど、新たな脅威が迫ります。
ますます窮地に追い込まれる子供たちの運命に、読者は目が離せなくなります。
7巻:アンコの戦い
敵の逃亡というまさかの展開で終わった6巻の続きから、7巻は始まります。
逃げ出した敵のパイロットが、自分の娘をなくしたばかりという情報を掴んだ軍人たちは、コモのピアノ演奏会を開くことで敵パイロットを呼び寄せるという作戦を立てました。
パイロットたちが不安になるのも束の間、敵パイロットはコモの演奏を聴きに会場までやってきます。
それは、死を決意した男の行動でした。
敵パイロットが演奏会場に来たのを悟ったコモは、今までの人生で感じてきた情動をピアノの演奏に乗せます。
それは、死を覚悟で自分の演奏を聴きに来た敵パイロット、そして会場にいる父親に向けた、コモの人生全てを表す演奏でした。
そして敵パイロットはコモの演奏に満足し、その命と自らの星の運命を、コモの父親の銃口の前に晒します。
コモが死に、次に選ばれたのはニュースキャスターの父親を持つアンコです。
それはちょうど、コモの戦いによって開示されたジアースの情報で日本中が大混乱し、その混乱に乗じて少年少女たちの個人情報が暴かれそうになっている時期でした。
事態に対抗すべく、パイロットをサポートする大人たちは、次に戦うアンコのテレビインタビューを決行することを決定。
大々的にジアースを公表することで、大義名分を得て子供たちを保護し、混乱を収めようという試みでした。
そしてそのインタビュアーとして、アンコの父親が選ばれます。
父親、そして日本中の目にさらされながら、戦うことになったアンコの過酷な運命が描かれます。
7巻は、パイロットたちの葛藤もさることながら、地球に生きる他の人たちの思惑が交錯する複雑な巻となりました。
コモの父親、アンコの父親、そして日本中、地球上の人々全てが、パイロットたちの戦いに注視することになります。
改めて、パイロットの子供たちが地球全てを背負って戦っていることが浮き彫りになる7巻は、読者に強い印象を残したでしょう。
8巻:カンジの戦い
足を負傷し、絶体絶命のアンコ。
しかし、足を負傷しながらも戦うアンコの姿を見ていた地球の人々は、アンコを応援します。
自分を応援する声が聞こえ、奮起したアンコは、ついに敵を倒すことに成功しました。
アンコは最後に、カメラ越しに世界中の人へジアースのパイロットとしてのメッセージを発信します。
ニュースキャスターである父親の語り口調を参考にしながら、彼女は最後まで役目を果たしました。
次のパイロットは、ウシロの幼馴染であるカンジでした。
カンジと世間話をしている最中、ウシロは自分がジアースのパイロットとして契約をしていないことを明かします。
それを聞いたカンジは、後に残されたウシロに、妹のカナを大事にすること、そしてマチに気をつけることを助言するのでした。
そして始まったカンジの戦い。
カンジの相手は長距離射撃で狙ってきます。
自分たちの地球(ホーム)での戦いのため、防戦一方になるカンジは、最後の手段である核も通じず苦戦を強いられます。
ウシロの提案で最後に思いついたのは、誰かの命をマーカーにして敵のもとへ向かわせ、そこめがけてレーザーを連続一点射撃することでした。
自らマーカーになることを志願したのは、ジアースのパイロットにもなっている関一尉でした。
そしてカンジは関一尉を始めとした多くの軍人の命を犠牲にして、敵を倒すことに成功するのでした。
少年少女たちだけではなく、大人たちも覚悟してこの戦いに臨んでいることが強く印象に残る8巻。
そして、この巻では主人公であるウシロ、そしてカナとの関係がピックアップされます。
まず、契約していなかったのはウシロであることが判明しました。
そして、カンジが気を付けろといったマチの存在も、今後の要注意人物として浮上します。
残りパイロットが少なくなる中、これらの謎は一体どのような展開をもたらすのか、読者の興味を掻き立てます。
9巻:カナの戦い
9巻冒頭、カナがジアースと契約していたという衝撃の事実が判明し、物語は始まります。
さらにカナのモノローグによって、ウシロとカナが本当の兄妹でないことが明らかになります。
時を同じくして、マチとコエムシが兄妹であることも明かされます。
カナの戦いが近づく頃、以前カナがアンコの父親に頼んでいた人探しの結果が出ました。
カナが探してほしかった人物とは、生きているウシロの母親であり、その人とは田中一尉であることが判明します。
カナは田中に、ウシロの母親であることを明かしてほしいと願いますが、田中は首を縦に振りません。
そして始まるカナの戦い。
カンジの戦いでジアースの索敵能力に弱点があることを知った軍人たちは、戦闘機に乗った田中をカナのサポートとして回します。
カナは戦うことを躊躇しますが、戦闘の最中に田中から「戦いが終わったらウシロに母親であることを伝える」と聞き、戦うことを決意します。
しかし、わずかな隙が出た田中は敵に捕まってしまい、人質になった田中はカナの足を引っ張ることを拒み、敵性怪獣の腕の中で自殺してしまいます。
激昂したカナはついに敵を倒し、死亡しました。
ウシロは、母親と義理の妹を同時に失ってしまうのでした。
戦いが終わり、田中の遺体を引き取りに来た田中の夫と、その娘(ウシロの異父兄妹)に出会ったウシロは、母親の死に悲しむ実の妹の姿を見て、誰かが死んでも別の誰かが悲しむことになるとマチに告げ、ついに契約をします。
そして、コエムシの意志によって契約を免れていたマチも、ジアースと契約するべく手を伸ばしました。
ここで9巻は終了します。
最年少のカナがパイロットになってしまうというショッキングな展開からスタートした9巻は、ウシロの家庭を始めとした複雑な家族模様がメインとなります。
そして、カナと田中の死を経てウシロがパイロットになり、さらに実はコエムシの妹でジアースと契約する予定がなかったマチも参戦するなど、クライマックスに向けて衝撃的な展開が続きます。
ウシロの父親が田中に伝えた「死について考えることが先進国の人間に与えられた最高の娯楽である」という言葉は、私たち読者に向けられたセリフだと捉える読者も少なくありません。
子供たちが地球のために死んでいく、どこまでも残酷な物語。
しかし、その死について想い、考えることが、私たちに与えられた最高の娯楽であり、同時に生きていく上で必要なことなのかもしれません。
10巻:ぼくらの戦い
ジアースと契約し、パイロットになったマチ。
そして、ウシロより先に戦うことになったマチは、死んでいった仲間たちの住んでいた街や家を訪ねて回ることをウシロに提案します。
ウシロも承諾し、二人は長い時間をかけて、ゆっくりパイロットたちの家族を訪問しました。
全ての家を回ったとき、ウシロへの恋心を明かしたマチでしたが、直後に何者かに撃たれてしまいます。
マチが撃たれ、再びパイロットは欠員が出て足りなくなってしまいました。
たった一人残されたウシロに、パイロットになることを申し出たのは、マチの兄であり、これまでの戦いを見守ってきたコエムシでした……。
10巻はクライマックスに向けて、凪いだ水面のように穏やかな場面と、嵐のような場面の緩急が激しい巻です。
パイロットの子供たちが死んでしまったことで、家族や周囲にどのような変化が起きているかが丁寧に表現されているのが、この巻最大の見どころと言えるでしょう。
子供の死をきっかけに、前向きに生きる人、反対にふさぎ込んでしまう人。
それぞれの人生があり、そこに正解はありません。
そこに、『ぼくらの』が名作たる所以が感じられます。
さらに、これまで狂言回しのような役回りだったコエムシが、妹マチの影響を受けて変わっていくのも感じられ、登場人物「ぼくら」全てが「戦っている」――そんなことを感じさせる10巻でした。
11巻:ウシロの戦い
コエムシを残し、最終決戦に挑むウシロ。
戦いの場所は、自分たちの地球ではなく、他の地球(アウェイ)での戦いになりました。
優勢に戦闘を続けるウシロでしたが、敵性怪獣のコクピットを開けてしまったために、敵パイロットが逃亡してしまいます。
逃げたパイロットは、アウェイの地球のどこかに存在しますが、どこにいるかまでは分かりません。
ウシロに残された選択は、この地球のどこかにいるパイロットを殺すまで、その地球の人間を一人残らず殺していくことしかありませんでした……。
最終巻となる『ぼくらの』には、最後の戦いにして最大の苦難が待ち受けていました。
物悲しさ、生きることの意味、その非情さ、家族との関係など、最終巻は物語のテーマ全てを包括した終わりとなっています。
言葉で語らずとも、読んだすべての読者の胸に、深い感慨が残ったことでしょう。
果たして、ウシロがどのような道を選んだのか。
それは、ぜひご自身の目で確かめてみてください。
『ぼくらの』を支える大人たち:サブキャラクター紹介
子供たちの戦いを見守り、時にサポートする大人たちの存在も、『ぼくらの』の物語に深みを与えています。
航空国防軍一尉・田中美純
国防軍がコモの戦いにより戦闘に関わることになり、子供たちの相談役となったのが、航空国防軍一尉の田中美純です。
演習で極めて優秀な成績を残しており、同期の人間からは「カナタさん」と呼ばれています。
戦闘中は子供たちと共にジアースに搭乗し、彼らにアドバイスを行っていました。
実はウシロの実の母親ですが、当時中学生であるなど複雑な事情により、恩師であるウシロの父親にウシロを預け、去っていきました。
海上国防軍一尉・関政光
田中一尉と同期に国防軍に入隊した、海上国防軍一尉の関政光。
彼もまた田中一尉と同じく子供たちのサポート役としてジアースと契約し、戦闘の際は同乗しました。
子供たちへの助言や軍との連絡を担当しています。
カンジの戦闘時、目視でしか敵の位置を特定できないが、人の魂の位置は把握できるジアースによる、砲撃のマーカーとなるべく敵性体に接近し、敵と共に死亡しました。
国防省軍令局・佐々見一佐
国防省軍令局の佐々見一佐は、ジアースを見て「男の夢だよなぁ」と呟く茶目っ気を持ち、普段は飄々とした態度を取っています。
官僚として冷徹な発言を行うこともありますが、子供たちを理解し、彼らの戦いがより良い結果になるよう尽力していました。
最終巻にてコエムシから役割を引き継ぎ、次の世界のコエムシとして旅立っていきます。
『ぼくらの』最終回:悲壮か、あるいは美しい結末か
15名の少年少女たちの長く苦しい戦いと、その犠牲により、この世界の戦闘は最後の局面を迎えます。
最終回の戦いは、次の世界での出来事となります。
これまでの戦いを見守ってきたコエムシであるマチの兄が、マチの意思を継ぎ、ジアースと契約。
新たなココペリとして、新たなコエムシとなった佐々見一佐と共に旅立ち、次世界の戦いのチュートリアル兼、現世界戦闘の最終回を行うところで『ぼくらの』は完結します。
ネットでの読者の感想は?
『ぼくらの』を最終回まで読んだ方々の間では、「重い作品であった」「鬱漫画である」という感想で一致しています。
読者は、15名の少年少女のうち、魅力的なキャラクターから自分と重ねてしまうキャラクターまで、どのように愛着が湧いたとしても、話が始まった時点で、どのような道を辿ったとしても、作中で死の結末が確定していることに衝撃を受けます。
設定からしてハードなこの作品が、このような感想を受けるのは自然なことと言えるでしょう。
しかし、その重さの中にも、その先の感想を抱く読者も少なくありません。
「救いのない世界で、でもその最終回は美しい」と感じる方や、「命の大切さを実感した」と感想を述べる方もいます。
作品最終回にて、マチの兄である元コエムシが、次のパイロットたちに「戦えるんだよ、てめーらにも間もなくわかる」と呼びかけ、「ジアース、発進」のセリフで『ぼくらの』最終回は締められます。
読者はこのセリフに様々な感想を抱き、物語の余韻に浸ります。
悲惨なだけじゃない! SFロボット漫画『ぼくらの』の真の魅力とは?
『ぼくらの』は、決して楽しい物語ではありません。
読んでいるだけで苦しくなってくるほど、重く、陰鬱なストーリーだと感じる方も多いでしょう。
しかし、それでも15名の少年少女たちの生き様を読み終わった後、読者は深い感動と共に、また彼らの物語に思いを馳せることがよくあります。
小さな子供たちが織り成す大きな物語は、多くの読者に「ただの鬱漫画」ではない、それ以上の何かを心に残すはずです。
もし未読であれば、ぜひ一度手に取って、この複雑な読後感を味わってみてはいかがでしょうか。


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