
『地獄楽』の物語は、死罪人、処刑人(山田浅ェ門)、そして天仙という、三つの勢力が織りなす極限のバトルとヒューマンドラマが魅力です。
その中でも、物語のラスボスとして立ちはだかるのが、天仙のリーダーである蓮(リエン)です。
亜左弔兵衛(あざちょうべえ)との房中術のシーンなど、登場初期から謎めいた存在として読者に強烈な印象を与えてきた蓮。
その冷徹残忍さと圧倒的な強さは別格でしたが、性別や真の目的は長く謎に包まれていました。
しかし、物語の終盤で、蓮の驚くべき正体と、誰も予想しなかった感動的な最期が明らかになります。
本記事では、蓮の性別や「始まりの天仙」という正体、愛と執念に満ちた目的、そして画眉丸の言葉によって自ら死を選んだ衝撃の結末までを、深く考察していきます。
天仙のリーダー・蓮(リエン)とは?謎に包まれた最強の存在
まずは、作中最強クラスの敵である蓮が、いかに脅威的な存在であったのかを整理します。
地獄楽を構成する三つの勢力と天仙の脅威
『地獄楽』の世界は、無罪放免を目指す死罪人、彼らを監視・処刑する山田浅ェ門、そして不老不死の仙人である天仙の三つ巴の戦いが繰り広げられます。
特に天仙たちは、脅威的な強さと再生能力を持ち、登場初期から多くの強者を死亡させてきた最強の敵勢力でした。
天仙は7人(物語初期には5人として認識されていた)いますが、そのリーダーである蓮は別格の存在であり、彼(彼女)の存在が物語の根幹をなしていました。
蓮(リエン)の登場と、最後まで謎に包まれた正体・目的
蓮は物語の比較的早い段階から登場していましたが、その性別や年齢、真の目的は謎に包まれていました。
当初は男性の姿で登場し、弔兵衛との接触を通じて、その冷徹残忍な一面と底知れない力を見せていました。
画眉丸たちの総力戦をもってしてもほぼ無傷というその強さは、「まるで神様のような強さ」と表現され、読者に絶望的な脅威を感じさせていました。
蓮(リエン)の性別や驚くべき正体:雌雄同体と始まりの天仙
最終決戦のタイミングで明らかになった、蓮の驚くべき正体と、天仙特有の性別に関する詳細を掘り下げます。
正体① 雌雄同体の身体と、最終的に判明した「女性」という性別
天仙は基本的に雌雄同体であり、陰と陽の氣を循環させることでタオを増強させています。
蓮も例外ではなく雌雄同体ですが、登場初期は男性の姿で活動していました。
しかし、弔兵衛との房中術の際には女性の姿となり、陽(男性)の氣を最大限に吸収しようとする描写がありました。
そして、最終決戦では正式な性別が女性であると判明します。
これは、花化によって性別を自由に変えることができていたためですが、力をフルに使うために元の性別である女性の姿で戦いに臨んだと考察されています。
正体② メイと並ぶ「始まりの天仙」の一人
蓮は、他の天仙、桂花(グィファ)や蘭たちを作り出した存在であり、メイよりも早く一番最初に産まれた天仙です。
蓮自身も「私は真仙、人を超越した仙人の最上位」と自負しており、他の天仙からは「兄」と呼ばれていました(後に女性と判明)。
天仙たちを創造した存在であることから、その力は凄まじく、まさに最強・最恐と呼ぶに相応しい存在感を放っていました。
正体③ 天仙の中でも別格の「最強」:桂花や蘭たちを創造した存在
蓮は、他の天仙が到達できないほどの次元にいる別格の存在です。
メイを含め、他の天仙が持つ力は蓮の力をただ分けただけであり、5人の天仙の力が集まったのが蓮であると言っても過言ではありません。
他の天仙たちが丹田(へそ)を破壊されて回復力を失ったのに対し、蓮は圧倒的なタオの量と高度な再生力を持ち、画眉丸たちの総力戦すらもほぼ受け付けないほどの神様のような強さでした。
最終形態では、阿修羅像のように手が6本に増え、目も二対増えるなど、その凄まじい力を視覚的に表現していました。
正体④ 神仙郷を作った「宗師・徐福」の愛する妻
蓮の最も驚くべき正体は、神仙郷を作ったとされる「宗師・徐福(じょふく)の妻」であったことです。
蓮も最初は人間でしたが、徐福と共に不老不死の研究を進める中で、蓮だけが花化に成功し、天仙となりました。
しかし、徐福自身は花化に適応できず、老化して亡くなってしまいます。
蓮は、愛する夫の遺体を金でコーティングして腐敗しないように大切に保管し、これが蓮の全ての行動原理となっていきました。
蓮(リエン)の最終目的:愛と執念が生んだ壮大な計画
蓮の冷徹な行動の裏には、愛する夫を失った悲しみと、それを乗り越えようとする強い執念がありました。
目的① 倭国(本土)の人間全てを「丹」にするという恐るべき計画
蓮の目的の一つは、倭国(わこく/本土)の人間全てを「丹(たん)」にするという、非常に恐ろしいものでした。
蓮は、船に仙薬と極楽蝶(刺されると花化する蝶)を積み込み、本土で無差別に花化を広める準備を進めていました。
仙薬を井戸などに入れることで、本土の人間を丹に変え、その混乱に乗じて本土を乗っ取ることを計画していました。
これは、個人的な執念のためとはいえ、倭国の全てを巻き込むという大規模な破壊行為であり、ラスボスとしての非情さが際立つ目的でした。
目的② 軸となる目的:愛する夫・徐福を復活させること
そして、蓮の全ての行動の軸であり最終目標となっていたのが、「夫・徐福を復活させること」です。
本土の人間全てを丹にして力を集め、その莫大な力で宗師の魂をも復元させることを目論んでいました。
魂の復元には、肉体の復元とは比較にならないほどの高濃度な氣が必要であるため、蓮は無差別に本土の人間を全て丹にしようとしていました。
蓮は、徐福の遺体を金に閉じ込めて腐敗しないように保管し、婚礼衣装と共に船に詰め込み、本土で復活させるべく出港の準備を整えていました。
蓮(リエン)の最期:死亡か?自ら選んだ感動的な結末
最強のラスボスである蓮の最期は、力による決着ではなく、自ら死を選ぶという、少年バトル漫画としては異例の感動的な結末でした。
画眉丸との総力戦:圧倒的な力と決着
蓮は、画眉丸たちの総力戦によって、負けを覚悟するほど追い詰められました。
しかし、蓮は画眉丸と佐切に致命傷を与え、結果的には蓮の圧勝で終わるかに見えました。
佐切の腹には大きな穴が開けられ、画眉丸の胴は貫通するという、絶望的な状況でした。
しかし、土壇場でとどめを刺せたはずの画眉丸が、なぜか攻撃の手を止めたことが、この後の奇跡の展開へと繋がります。
画眉丸の言葉が蓮の執念を溶かす:「夫婦」の愛に気付かされた瞬間
蓮は、瀕死となった画眉丸に、「なぜ徐福の遺体を燃やさなかったのか」と尋ねます。
画眉丸は、「妻の顔が浮かんだ。おヌシも同じなのかと、だから・・・やめた」と答えます。
この言葉を聞いた蓮は、我に返り、徐福との楽しく幸せな日々を思い出し、人間の時の姿へと戻ります。
蓮は、失った愛を執念に変えていましたが、画眉丸の「夫婦の在り方」を貫く言葉を聞き、愛の本質に気付かされました。
佐切と画眉丸を救うためにタオを使用して崩壊
我に返った蓮は、自らの罪深い行いを謝罪するかのように、最後の力を振り絞ります。
蓮は、絶対助からないはずの致命傷を負った画眉丸と佐切の傷を、タオを使用して治療しました。
この治癒に全力を使い果たした結果、蓮のタオは切れて崩壊し、花びらとなって散っていきます。
この自己犠牲的な行動こそが、蓮が自らの過ちに気付き、愛を取り戻した証拠と言えるでしょう。
最後は徐福に迎えられ、花びらとなり散る美しい最期
力を使い果たし、花びらとなって散っていく蓮の前に、夫・徐福が迎えに来ます。
蓮は、本当の樹化した姿で徐福と寄り添い、天へ召されていきました。
「愛する人に生き返ってほしい」という純粋な思いが、いつしか戻れないところまで来てしまっていた蓮でしたが、最期は愛に気付き、夫婦の愛情による美しい最期を迎えることができました。
ラスボスが「自死」を選んだ背景にある夫婦の愛
蓮の最期は、力でねじ伏せるという少年漫画の定石を覆し、「愛」というテーマに収束しました。
執念の塊からの回帰:愛する人のためだけに生きていたという共通点
蓮は、失った伴侶を取り戻すための執念の塊となっていました。
しかし、蓮と同じく「愛する妻にもう一度会うために」手段を選ばず戦っていた画眉丸の言葉を聞くことで、我に帰ります。
「夫婦の愛」という共通の生き方をしていたからこそ、画眉丸の言葉が蓮の心の琴線に触れ、愛と執念を混同していた自分に気付かされました。
力では勝てない相手に「情」で勝利した画眉丸の言葉
十禾(じっか)が「力では蓮に絶対に勝てない。力ではね・・・」と言い捨てていたように、蓮は実力で打ち破ることは不可能な最強の敵でした。
しかし、画眉丸は情に訴えるという、偶然にも有効な方法で蓮の心の壁を打ち破りました。
夫婦の在り方というものを情に訴えて勝つ方法であれば、画眉丸たちにも希望があったのです。
これは、純粋なバトルだけでなく、人間の情や愛が最強の力にもなり得るという、『地獄楽』の深いテーマ性を象徴する結末となりました。
蓮の罪深い行いと、共感を呼ぶ「愛する人を生き返らせたい」という願い
本土の人間を無差別に丹にしようとした蓮の行いは、罪深いものです。
しかし、「愛する人に生き返ってほしい。また一緒に過ごしたい」という、その根底にある願いは、誰もが共感できる、非常に人間的なものでした。
蓮の最期は、その純粋な愛が、暴走した執念から解放される瞬間を描き、読者に深い感動と哀愁を残しました。
まとめ
『地獄楽』のラスボス、蓮(リエン)は、徐福の妻という驚くべき正体を持つ、雌雄同体の最強の天仙でした。
愛する夫を復活させるという壮大な目的のために、倭国の人間全てを丹にするという非情な計画を推し進めていました。
しかし、画眉丸の「夫婦の愛」に関する言葉が、執念の塊となっていた蓮の心を取り戻します。
蓮は、自らの過ちを反省し、最後の力を使い果たす形で画眉丸と佐切を救い、自死を選びました。
力では決して勝てないとされていた最強の敵が、「愛」によって敗北し、夫・徐福に迎えられるという美しい最期を迎えたことは、『地獄楽』の物語を象徴する感動的な結末であったと言えるでしょう。
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