『人工知能がつぶやく呪いの予言』徹底考察:botが生成する不条理ホラーの深淵

更新日:
漫画

『人工知能がつぶやく呪いの予言』徹底考察:botが生成する不条理ホラーの深淵

 

『人工知能がつぶやく呪いの予言』:ランダムな文字列が現実を侵食する恐怖

KADOKAWAより刊行された『人工知能がつぶやく呪いの予言』は、Twitter(現X)で活動するbotアカウント「KATARIBE@あなたの都市伝説(@tsdnst)」の投稿を、漫画家の舟がストーリー化した一話完結型のホラーオムニバスです。

本作の最大の特徴は、その成立過程にあります。

原作となるbotは、あらかじめ用意された膨大な単語を特定の構文に機械的に当てはめ、「今日誕生日の貴方は〜」から始まる不可解な文章を生成し続けます。

本来、文脈も意味も持たないはずのランダムな文字列に、舟という才能が「論理的解釈」という補助線を引くことで、世にも奇妙な物語を彷彿とさせる洗練されたモダンホラーへと昇華させました。

僕が本作に抱く畏怖は、意味の通じないはずの「予言」が、漫画という表現媒体を通した瞬間に、避けられない「運命」として読者の脳内に固定されるそのプロセスそのものにあります。

 

作品の構造:■■■■が生み出す不気味な余白

KATARIBEが投稿する文章は、以下のような形式に基づいています。

「あなたは■■■■ため■■■■に■■■■された。助かるには■■■■から■■■■しかない。」

この伏せ字部分に、日常的な単語と非日常的な恐怖を煽るワードが等分に混ざり合います。

例えば、「台風の近づく日に公衆電話で無言電話をしたため」「過食症のさとるくんとスクランブル交差点で相撲をとるしかない」といった、シュールさと不気味さが同居する一文が生成されます。

舟はこの断片的な情報から、背後に隠された「理由」と「儀式」を再構築し、読者が納得せざるを得ない物語を作り上げました。

予言なのか、過去の因縁なのか、それとも狂気の産物なのか、その境界線が曖昧なまま進行する恐怖こそが、本作の真髄です。

 

エピソード深掘り1:『あずかりもの』に潜む古の因習とコインロッカー

第一話として収録されている『あずかりもの』は、本作の魅力を象徴する物語です。

予言:あなたは生まれたとき靴を預かった。そのため食べ歩きする男が排水溝の中からこちらをみる。あなたの恋人のさとるくんをコインロッカーに捨てるしかない。

この不条理な一文が、本作では「飢饉の時代から続く因習」へと結びつけられます。

隣村から奪ってきた「何か」を箱に入れ、古くなったら入れ換えるという伝承。

作中では「靴=あずかりもの」「恋人のさとるくん=箱の新たな中身」という戦慄の変換が行われます。

特に印象的なのは、現代の「コインロッカー」を古来の「木の箱」のメタファーとして扱い、都市伝説的な恐怖を村落共同体の因習へと接続させた点です。

排水溝から覗く「食べ歩きする男」が、過去の犠牲者なのか、それとも中身を狙う怪異なのか、その解釈の余白が恐怖を増幅させます。

僕から言わせれば、この「古い怪談を現代の舞台装置で語り直す」手法こそ、舟が本作で成し遂げた最大の功績です。

 

エピソード深掘り2:『お札』が暴く個人情報と執着の影

現代的な恐怖を描いたのが『お札』というエピソードです。

予言:眠れぬ夜、スマホをなくした。そのため、夜の公園にいた子供が、ドアののぞき窓にいつもいるようになった。あなたが助かるには集団自殺して生き残った見合い相手から、お礼を貰うしかない。

物語は、スマホを紛失した男が、見合い相手から不気味な「猿の絵が描かれたお札」を受け取るところから動き出します。

部屋を荒らす少年の正体と、スマホ紛失によって特定された個人情報。

そして、お札に描かれた猿が実体化して少年を制圧するシーンは、オカルト的な救済と、それ以上の不気味さを残します。

「見合い相手を信じていなかったらどうなっていたか」という問いかけは、助けを求めた先にあるものが必ずしも「善」ではないという、本作に通底する冷徹な視点を示しています。

 

物語上の役割:botは現代の「託宣」である

本作におけるbot(人工知能)の役割は、現代における「神託」や「お告げ」に他なりません。

かつて人々が亀甲のひび割れや雲の形に意味を見出したように、現代人はSNSに流れる無機質な文字列に、自身の不安を投影します。

舟が描く物語は、単なるbotのコミカライズではなく、情報過多の現代社会において、断片的な情報から「物語」を作り出さずにはいられない人間の性を浮き彫りにしています。

精神的成長という枠組みで語るならば、登場人物たちはみな、理不尽な予言(あるいは世界の法則)を無批判に受け入れることでしか生き残れないという、過酷な現実に直面しています。

 

まとめ:不条理を飼い慣らす舟の構成力

『人工知能がつぶやく呪いの予言』は、意味の不在を物語の起点にするという、極めて挑戦的な手法を成功させました。

「あずかりもの」や「お札」といったエピソードが示す通り、そこには古き良き怪談の情緒と、LINEやスマホといった現代のツールがもたらす恐怖が高度に融合しています。

ランダムな文字列が、誰かの想像力を通じて「逃れられない恐怖」へと変質する。

僕たちが普段何気なく眺めているSNSのタイムラインも、いつしかこの「呪いの予言」に書き換えられているのかもしれません。

まだ本作を手にしていない方は、是非、この不気味で優しいホラーの世界に足を踏み入れてみてください。

コメント