2017年に『週刊少年マガジン』で連載を開始し、その後『マガジンポケット』へと移籍した異色の格闘漫画『ランカーズ・ハイ』をご存知でしょうか。
作者・中島諒先生の圧倒的な画力で描かれる闇格闘の世界と、主人公が繰り広げる頭脳戦が読者の心を掴みました。
今回は、MGP(マガジングランプリ)受賞作でありながら、惜しまれつつ連載を終えた『ランカーズ・ハイ』の最終回までのあらすじをネタバレ全開でご紹介します。
さらに、作品の魅力や読者の間で語られた感想、そして賛否両論を巻き起こした点についても深掘りしていきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
MGP受賞作『ランカーズ・ハイ』とは?
『ランカーズ・ハイ』は、中島諒先生が描く闇格闘をテーマにした少年漫画です。
2017年10号から『週刊少年マガジン』で連載がスタートし、その後、掲載プラットフォームを『マガジンポケット』へと移籍、コミックス全6巻で完結しました。
本作は、中島先生が2014年にMGP(マガジングランプリ)佳作を受賞した同名作品のリメイク版であり、その高い画力は連載を通じてさらに磨きがかかっています。
主人公の頭脳を駆使したバトル描写は、格闘漫画の常識を覆すような新しさがあり、その駆け引きの面白さが最大の魅力とされています。
また、登場する女性キャラクターたちの可愛らしさも、読者から高い評価を得ていました。
MGP(マガジングランプリ)とは?
MGPとは、講談社が毎月開催している新人漫画賞「マガジングランプリ」のことです。
毎月受賞のチャンスがあり、賞金も高額であることから、多くの新人漫画家にとっての登竜門として知られています。
中島諒先生は、2014年2月期に『ランカーズ・ハイ』で佳作を受賞し、その才能が認められました。
受賞当時の絵と連載時の絵を比較すると、3年間で画力が大幅に向上していることが見て取れ、作者の努力と成長を感じさせます。
『ランカーズ・ハイ』主要登場人物
物語を彩る主要なキャラクターたちをご紹介します。
渕上竜也(ふちがみ たつや)
本作の主人公です。
目立ちたがり屋の高校生で、喧嘩の腕よりもその頭脳と策略で戦うことを得意とします。
父が残した5億円もの借金返済のため、闇の闘技場“MAD”に参戦。
スケベで不遜、ナルシストな一面もありますが、幼馴染の麻衣を誰よりも大切に思っており、友情に厚い一面も見せます。
戦闘スタイルは極めてクレバーで、少年漫画の主人公としては異例とも言える卑怯な戦術も厭いません。
過去の事件により「5分以上戦えない身体」になっており、この設定とMADランキング1位の御条への執着が物語の鍵となります。
榎田麻衣(えのきだ まい)
渕上の幼馴染で、彼が抱える借金の話を唯一打ち明けた存在です。
行動力が高く気が強い性格ですが、渕上のことを深く心配する優しい一面も持ち合わせています。
容姿端麗でスタイルもよく、作品の扉絵では渕上よりも圧倒的に多く登場するほどの人気を誇ります。
越ヶ谷夕星(こしがや ゆうせい)
渕上の高校に転校してきたイケメンです。
格闘一族・越ヶ谷の出身で、優れた体幹からどんな体勢からでも蹴りを放てる高い技術を持つ実力者です。
姉の燈に対して、姉弟愛以上の感情を抱くほどの重度のシスコンであることも特徴です。
越ヶ谷燈(こしがや あかり)
MAD役員を務める夕星の姉です。
弟の夕星よりも早くから登場していました。
ドジでネガティブ思考なところがありますが、弟への深い愛情を抱いています。
父を死なせたMADに弟を入れることを極度に恐れており、その妨害のために役員としてMADに入りました。
『ランカーズ・ハイ』あらすじ:巻ごとのネタバレ紹介
ここからは、『ランカーズ・ハイ』の各巻のあらすじをネタバレを含めてご紹介します。
1巻:闇の闘技場“MAD”への参戦
高校生・渕上竜也は、父が残した5億円もの借金を背負い、眼帯の男・御堂康平に闇の闘技場“MAD”へと誘われます。
拒否する渕上でしたが、幼馴染の榎田麻衣を人質に取られ、出場を承諾せざるを得なくなります。
最初の対戦相手は、ボクシングチャンピオンの柴灯臨。
敗者は死ぬという過酷なルールの中、渕上は柴灯のヘビー級のパワーと鋭い観察力に苦戦します。
しかし、渕上は柴灯の心理と、御堂とのやり取りやリングインのアナウンスといった情報を全て逆手に取る策略を巡らせます。
目潰しを予測させておいてからの金的攻撃で逆転勝利を収めるという、読者をも欺く巧妙な戦術で初勝利を飾り、MADランキング9位に浮上します。
翌日、柴灯戦の怪我を抱えながらチンピラに襲われた渕上を助けたのは、謎の覆面レスラーでした。
彼こそが次の対戦相手、ランキング8位“ビッグベア”久万剛だったのです。
2巻:久万との出会い、越ヶ谷夕星の登場
ランキング8位の久万との戦いでは、渕上は久万の圧倒的なパワーに苦しみながらも、久万の心理とMADルールの穴を突く闘い方で隙を作り、最終的に必殺技“虎”を当てて勝利します。
MADの掟により処刑されそうになる久万を、渕上は自身のファイトマネーを使って彼の借金を肩代わりし、救い出します。
渕上は久万へのその行為を道場への入会金であるとし、久万へ弟子入りして鍛えてもらうことになります。
周到で時に卑劣とも言われる闘い方で「悪魔」とまで呼ばれる渕上ですが、このシーンでは人情味溢れる一面が見られます。
一方、渕上の怪我が酷くなっていくことに不審と不安を覚えた麻衣がMADについて調べ始めます。
そんな中、渕上の前に転校生・越ヶ谷夕星が現れ、彼は有名な格闘一族の実力者としてMADランカーを目指すために渕上から情報を得ようとします。
そして渕上の次の相手としてランキング7位、国民栄誉賞受賞の空手家・花嶺栄春が登場します。
彼は国民的英雄の顔の裏に、死体愛好というおぞましい趣味を隠し持っていました。
3巻:花嶺との頭脳戦と麻衣の行動
渕上は花嶺に嘘の試合日程を教えるという策を用い、その隙に彼が隠匿している愛弟子・富橋の死体を確認します。
そして試合へ。
渕上は富橋の型や仕草を演じることで花嶺を動揺させようとしますが、花嶺は動じず、渕上は絶対絶命のピンチに恐怖で逃げ出してしまいます。
一方その頃、渕上の身を案じた麻衣は、何か証拠を得ようと渕上の家へ忍び込み、同時に資料を処分に来ていた御堂と接触します。
花嶺から逃げ出した渕上の前にランキング1位の御条が現れ、呼吸法“龍”を使えと助言します。
“龍”で心身を整えて再び花嶺に対峙した渕上は、逃げ出す前から積み重ねてきた策で花嶺に一瞬の隙を作り、“虎”をヒットさせた後のラッシュで花嶺に勝利します。
勝利のあと目覚めた渕上にファイトマネーを持ってきたのは、御堂に接触しMADの一員となった麻衣でした。
4巻・5巻:越ヶ谷姉弟との戦いと絆
麻衣は渕上の反対を押し切り、彼をサポートするためにMADの一員になります。
一方、いつまでもMADランカーになれない越ヶ谷夕星でしたが、その理由はMAD役員である姉・越ヶ谷燈が弟を心配するあまり妨害していたからでした。
妨害が発覚した後、夕星は父の敵である宇野の弟を倒すことで力を示し、ランカーとして認められます。
そしてランキング6位として渕上との対決が実現します。
渕上は試合開始前から打っていた布石で夕星を惑わしますが、夕星は燈の卓越した観察眼による助言を得て巧みに反撃します。
渕上は、負ければ姉が処刑されると夕星を脅して時間を稼ぎ、回復を図ります。
その後もドーピングを匂わせたり、姉の助言を聞かないように挑発したりと、夕星のメンタルを攻撃し、混乱を誘って変形の“虎”をヒットさせ、勝利を収めます。
試合後、燈は夕星のMAD入りを妨害するために着服した4000万円が原因で処刑されそうになりますが、久万のときと同様に渕上が肩代わりして救い、夕星を自身の技術の師とすることで決着します。
最終巻:凛堂宗作との最終決戦、そして…
そして次の相手はランキング5位、凛堂宗作。
一週間後、学校へ出てきた渕上のもとに麻衣の妹・芽衣が現れ、友人に絡むヤクザを倒して欲しいと頼まれます。
そのヤクザの所属は“凛堂”組――。
渕上は凛堂組を名乗るヤクザと対峙しますが、そこへ凛堂組組長・凛堂宗作が現れます。
ヤクザらは凛堂組を騙る偽物であり、凛堂は組名を騙った連中をジークンドーで倒し、拳銃で迷いなく殺害して渕上に警告します。
そして試合に臨む両者ですが、MADは上位ランカーが環境を決められるため、凛堂組の屋敷での闘いとなります。
渕上は事前に屋敷を下見し、十分な仕込みをした上で闘いに臨みます。
渕上はMADルールの穴を突き、刀や拳銃を使用可能にし、自身が活用すると見せて凛堂の手に渡るように仕向けます。
強力な選択肢を相手に与えることで、要所のジークンドーを封じる狙いでした。
逃げ回るときに靴を奪い、砂利の庭に誘い込むことでフットワークを封じ、“虎”をヒットさせて勝利を飾ります。
残りのランカーは4人。
渕上は凛堂の早さを習得し、さらに上を目指すため、彼を久万や夕星のように自身の師としたところで物語は幕を閉じます。
読者の感想から見る『ランカーズ・ハイ』の魅力と賛否
『ランカーズ・ハイ』は、その独特な作風から読者の間で様々な感想が寄せられました。
連載開始時の反響
連載開始当初から、その斬新な頭脳戦の描写は、木多康昭先生の『喧嘩稼業』(旧題:『喧嘩商売』)との類似性を指摘する声が多く見られました。
しかし、「喧嘩稼業を少年向けにものすごく分かりやすく咀嚼した感じ」と肯定的に捉える読者も多く、新しいタイプの格闘漫画として注目を集めました。
中島諒先生自身も、インタビューで『喧嘩商売』をフォロワーであることを公言しており、リスペクトが感じられる作品となっています。
惜しまれた最終回
最終回を迎えた際には、多くの読者から「これが最終回なの?」「嘘マジか…!」と驚きと残念がる声が上がりました。
特に、ランキング1位の御条の目的や、来澤の戦闘スタイルの秘密など、回収されない伏線が多く残されたままだったため、消化不良感を抱いた読者も少なくなかったようです。
しかし、中島諒先生の高い画力によって描かれる個性的なキャラクターたち、特に凛堂宗作のような魅力的なキャラクターには、最終回まで好感を持つ感想が多く見られました。
頭脳戦の評価
本作のメインテーマである頭脳戦は、特に物語の前半において、読者をも騙すような主人公・渕上の策略が「爽快だった」と高い評価を受けました。
しかし、物語が進み、読者がキャラクターの思考を把握できるようになると、「作中のキャラがまんまと騙されるのが白けてしまう」といった意見も散見されました。
例えば、越ヶ谷戦では、読者が渕上の意図に気づいているのに、作中のキャラクターがそれに気づかないという状況が顕著だったという指摘もあります。
また、一部の策略に対しては「どうしても有効とは思えない策」という懐疑的な見方も存在しました。
普遍的な魅力と次回作への期待
頭脳戦の評価は好みが分かれる部分があったものの、中島諒先生の高い画力で描かれるバトル描写は、多くの読者に「迫力がある」と評価され、普遍的な魅力として受け入れられました。
また、可愛らしい女性キャラクターの存在も、作品の評価を高める一因となりました。
『ランカーズ・ハイ』は残念ながら打ち切りという形で幕を閉じましたが、その独創的な世界観と画力は、今後の漫画界においても非常に期待される才能であることに変わりはありません。
中島諒先生の次回作が、どのような形で読者の前に現れるのか、今から楽しみですね。
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