
『週刊少年ジャンプ』で連載され、サスペンス要素と学園コメディが見事に融合した松井優征先生の『暗殺教室』。
生徒が担任教師を暗殺するという前代未聞のテーマで人気を博し、アニメ化や実写化、スピンオフ漫画『殺せんせーQ!』の展開など、幅広いメディアで高い評価を獲得しました。
特に原作漫画は「全国書店員が選んだおすすめコミック2013」や「このマンガがすごい2014オトコ編」などで1位を獲得するなど、その面白さは折り紙付きです。
その物語の中で、初期から登場しながらも長期間にわたってその正体を隠し続け、読者や作中のキャラクターたちを驚かせたのが、3年E組出席番号7番の生徒、茅野カエデです。
殺せんせーというターゲットに「殺せんせー」というニックネームを付けた張本人であり、生徒側の主人公である潮田渚と仲が良く、その出番も多かった彼女。
しかし、実は彼女のその言動や行動には、全て正体を隠すための緻密な伏線が張り巡らされていました。
本記事では、茅野カエデ(本名:雪村あかり)が隠し持っていた触手と、殺せんせーへの復讐という目的に繋がる、作中に登場したセリフ、発言、シーンの伏線について徹底的に考察し、松井優征先生の驚異的な構成力に迫ります。
茅野カエデとは?プロフィールと隠された正体
暗殺教室の作品概要と茅野カエデの役割
『暗殺教室』は2012年から2016年まで『週刊少年ジャンプ』で連載されたサスペンス学園漫画です。
ある日、椚ヶ丘中学校の3年E組の担任となった「謎の超生物」は、来年3月までに自分を殺せなければ地球を破壊すると宣言。
防衛省はE組の生徒たちに暗殺を依頼し、生徒たちは殺せんせーと名付けた担任兼ターゲットの暗殺を通して成長していく物語です。
茅野カエデのプロフィールと「偽りの姿」
茅野カエデは、3年E組の生徒として、潮田渚と親しく行動することが多いキャラクターでした。
彼女は大の甘党であり、貧乳を気にするあまり暗殺の成功報酬である百億円を「例え筋肉でも構わないから胸囲を買いたい」と語るほど、胸の話に敏感でした。
コードネームは「永遠の0(ゼロ)」と付けられています。
しかし、この明るいキャラクターの裏に隠されていた茅野カエデの正体は、元3年E組の担任・雪村あぐりの実妹である雪村あかりでした。
茅野カエデという名前は、子役時代の没になった役名から取った偽名でした。
彼女は、殺せんせーが姉を殺したと思い込み、復讐のため、触手を身に付けてE組に潜入していた暗殺者だったのです。
彼女の目的は、触手の暴走によって姉の仇である殺せんせーを殺すことでした。
彼女は、自身の正体を隠すために、黒髪を緑色のツーサイドアップに変え、暗殺者としての素質が目立つ潮田渚を際立たせることで、自身が「渚の隣の目立たない子」というポジションを獲得し、クラスに溶け込んでいました。
これは、彼女の元々の高い学業や運動能力をあえて抑え、「演技」を貫き通した結果です。
茅野カエデの正体に繋がる伏線セリフ・発言の数々
松井優征先生は、茅野カエデが正体を明かすまでの長期間、彼女のセリフや行動に、意図的な「ヒント」を盛り込んでいました。
正体を知ってから読み返すと、その緻密さに驚かされます。
伏線①:渚にカルマのことを聞く「転校生」としての描写
茅野カエデは、最初期から転校生であることが描かれていました。
2年生の終わりに停学になり、新学期から遅れてE組に合流した赤羽業(カルマ)のことを知らない、という形でその事実が示されています。
彼女の口から「E組に来て日が浅い」という発言や、木村正義(ジャスティス)の名前の由来など、椚ヶ丘中学校の「入学時」のエピソードを知らない描写が散りばめられていました。
これは、読者にとっては「読者目線の解説役」という形で軽く受け止められていましたが、実際は彼女が姉の死後、E組に潜入するために転入してきたという事実の裏付けとなっていました。
伏線②:水が苦手な理由「触手が水分でふやける」
殺せんせーが作った特製プールでクラスメイトが楽しむ中、茅野カエデは一人憂鬱そうな表情を見せていました。
彼女は、「泳ぐのが苦手」や「身体のラインがはっきり出るから」といった理由を語り、極力身体に水がつかないように浮き輪を使っていました。
この行動は、彼女が背中に触手を隠していることを考えれば当然の行動です。
殺せんせーの弱点の一つとして「触手が水分でふやけてしまう」ことが判明していますが、茅野カエデの触手も同様に水分に弱く、水に触れることを極端に避けていたのです。
貧乳を気にするという理由も、触手を隠すためのカモフラージュとして利用されていたことが伺えます。
伏線③:「美味しいものは最後に食べる派」というセリフ
普段の何気ない会話の中で、茅野カエデは「美味しいものは最後に食べる派」だという発言をしています。
このセリフは、一見すると彼女の甘党な性格を表しているように見えますが、実は復讐の実行時期に対する茅野カエデの心理的な伏線とも解釈できます。
彼女は殺せんせーがE組にやってきた時点で既に触手の力を持っており、身体を蝕まれていましたが、長い間正体を隠していました。
これは、復讐という「美味しいもの」を「最後」に実行するという、彼女の役者としての忍耐強さと復讐心が関係していたと言えます。
復讐の衝動に駆られながらも、最も効果的なタイミングを見計らっていた彼女の「黒幕」としての側面を象徴するセリフです。
伏線④:「ぷるんぷるんの刃」という二重の意味
プリンを使った暗殺が失敗した際、茅野カエデは「ふふ。本当の刃は親しい友達にも見せないものよ」というセリフを残し、続けて「ぷるんぷるんの刃だったら他にも色々持っているから」という発言をしています。
エピソードの文脈では、彼女のプリンへの並々ならぬ熱量を表現しているようにしか見えません。
しかし、正体を知った後であれば、「本当の刃」は背中に隠し持った「触手」であり、「ぷるんぷるんの刃」とは、触手の異名だったと解釈できます。
このセリフは、プリンへの愛情を利用した巧妙な二重の伏線であり、読者をミスリードさせる松井先生の技術が光るシーンです。
シーンによる伏線と作者のミスリードの意図
茅野カエデの正体は、セリフだけでなく、作中のシーンの構図や他キャラクターの反応によっても、巧みに伏線が張られていました。
特に、潮田渚を意図的に中心に据えることで、読者に別の解釈をさせるミスリードが多用されています。
伏線⑤:シロによる「渚の隣」への反応
シロが初めてE組の教室にやってきた際、渚の方を見て何かを気づいたような反応が描かれています。
読者は、これを渚の暗殺者としての才能を見抜いたシロの反応だと解釈しました。
しかし、正体が明かされた後、このシーンは、渚の隣の席の茅野カエデを見て気づいたシロの反応だったことが明らかになります。
さらに、その際茅野カエデは咄嗟に目線を逸したという事実も描かれていました。
画角の中心に渚を据えながら、シロの視線の先にいたのは茅野カエデだったという、作者の巧みな構図によるミスリードでした。
さらにシロは、イトナを連れて帰る際に「しかもあのクラス・・・。フフ面白い」と意味深なセリフを残し、その後にも「あの教室にはイトナ以上の怪物がいる」などと発言していました。
これらも、全て渚の「暗殺者としての素質」ではなく、「触手を持った復讐者」としての茅野カエデの存在を指していたのです。
伏線⑥:理事長の私物を壊した人物
浅野学秀のセリフの中で、理事長の私物を壊してE組送りになった人物がいることが示唆されていました。
これは、一見すると素行不良な生徒のエピソードに見えますが、この人物も後に茅野カエデだったことが判明します。
茅野カエデがE組に転入するため、理事長の私物を故意に壊しE組送りになるという、入念な準備が行われていたことを示す間接的な伏線でした。
このエピソードは、彼女がE組に潜入する動機と、役者として雰囲気作りを徹底していた背景を示しています。
伏線⑦:死神の攻撃を食らった際の「唯一の意識」
死神(弟子)と交戦になった際、3年E組の生徒は攻撃を食らって皆が失神してしまいます。
しかし、その中で唯一意識があったのが茅野カエデでした。
打ちどころの問題と捉えることもできますが、彼女が人間ではない触手を持つ体であったことを示唆する、「普通じゃない」という事実を暗示するシーンとして読み解くことができます。
触手は宿主の負の感情を増幅する傾向にあり、彼女の貧乳コンプレックスと巨乳への恨みも増幅されていたことが明らかにされています。
この攻撃を耐え抜いた描写も、彼女の触手の力と、それに起因する強靭な生命力を示していました。
茅野カエデと潮田渚の関係:利用から好意へ
茅野カエデは、初期から潮田渚との関係を利用することで、自身の正体を隠すことに成功していました。
潮田渚を「カモフラージュ」として利用
茅野カエデは、自身の正体を隠すため、偶然席が隣になった潮田渚を利用しました。
渚の髪型をツーサイドアップにすることを勧め、彼が目立つように仕向けることで、自身は「渚と仲が良いそばにいる子」という、目立たないポジションを確立しました。
当初、渚への恋愛感情は全て演技でしたが、結果として彼女はクラスに溶け込み、正体が発覚した冬休み以降も、茅野カエデとしての生活を気に入っていました。
彼女は、「茅野カエデとしての生活」を通して得た神崎などのクラスメイトとの人間関係はそのまま継続し、最後までE組の生徒として卒業することになります。
ディープキスシーン:暴走を抑えた「真の救済」
正体を明かし、触手の暴走に飲まれてしまった茅野カエデを救うべく、潮田渚が取った行動は、周囲が驚くディープキスでした。
このキスによって茅野カエデは自我を取り戻し、触手を取り除くことにも成功します。
これは、渚が暗殺教室で培った「触手に有効な技術」を、「人を救う方向」へ応用した象徴的なシーンでした。
この出来事を暴走状態ながらしっかりと認識していた茅野カエデは、これをきっかけに潮田渚を異性として意識するようになります。
バレンタインではチョコを用意するも、「前を見てまっすぐ進もうとする潮田渚の邪魔をしたくない」と考え、その思いを伝えることはありませんでした。
彼女は、「私の自慢の演技の刃で、最高の笑顔で応援するよ」と心の中で誓い、親しき友人としての関係を選んだのです。
これは、彼女の役者としての覚悟と、渚への真の愛情が垣間見える、感動的な名言として人気を獲得しています。
読者の考察と伏線回収への評価
茅野カエデの正体に関するエピソードは、松井優征先生の構成力を象徴するものとして、ファンから非常に高く評価されています。
多くの読者が、「ネウロの一件があったからか」「終盤で見事に全部伏線だった」と、正体を知った後に、視線の方向や何気ない描写といった細かな伏線の積み重ねに驚きの声を上げています。
中には、「茅野カエデが登場するコマの中に、不自然な形の触手が描かれていた」という、超細かな描写まで伏線としてあったとする声もあり、松井先生の緻密な描き込みが話題となりました。
また、茅野カエデの過去や殺せんせーの正体にも関わる「毒気のあるエピソード」は、松井先生の前作『魔人探偵脳噛ネウロ』を彷彿とさせると評価されました。
「これが松井先生だ!」と、ネウロからのファンを狂喜乱舞させるほどの見事な伏線回収劇でした。
アニメ版では、声優の洲崎綾さんが、普段の明るいキャラクター性と暴走した時の雰囲気の大きな違いを見事に演じ分け、「演技力の幅広さ」を最大限発揮した代表作の一つとなったという評価も多く、「声優さんって凄いよね」と、その表現力に賞賛が集まりました。
茅野カエデの正体は、暗殺教室という物語の中核をなす重要な要素でした。
その伏線は、一度読んだ人も、二度目は伏線を探しながら楽しめるという、作品の深みを増す仕掛けとなっています。
ぜひ一度、その緻密に張り巡らされた伏線の数々を、再読・再視聴で確かめてみてはいかがでしょうか。
以下の関連記事も是非ご覧ください!














コメント