
チェンソーマンは、多くの読者を熱狂させている一方で、その謎めいたストーリー展開からさまざまな考察を生み出しています。
その中でも特に多くの議論を呼んでいるのが、作中で繰り返される出来事や描写の矛盾から浮上した「無限ループ説」と「パラレルワールド説」です。
今回は、これらの説の根拠となるシーンや、漫画の表現技法として使われている黒枠と白枠の秘密について、徹底的に深掘りしていきます。
藤本タツキ氏が描くこの物語は、一般的な少年漫画の枠を超え、読者に「これは一体どういうことだ?」と考えさせる仕掛けが随所に散りばめられています。
この記事では、読者の間で浮上している多様な見解を交えながら、チェンソーマンの複雑な世界観を紐解いていきます。
【チェンソーマン】作品の基本情報とあらすじ
チェンソーマンの概要
無限ループ説やパラレルワールド説を考察する前に、まずは「チェンソーマン」の基本情報を確認しておきましょう。
チェンソーマンは2019年から週刊少年ジャンプで連載が始まり、第一部「公安編」が完結したのち、現在は少年ジャンプ+で第二部「学園編」が連載されています。
その人気は凄まじく、累計発行部数は2023年1月時点で2300万部を突破しています。
2022年にはテレビアニメも放送され、アニメファンからも高い評価を得ました。
アニメの脚本は「呪術廻戦」などを手掛けた瀬古浩司が担当しており、原作の持つダークで予測不能な雰囲気が見事に再現されています。
チェンソーマンのあらすじ
チェンソーマンの主人公はデンジです。
彼は父親の残した莫大な借金を返済するため、フリーのデビルハンターとして貧しい生活を送っていました。
しかし、雇い主に裏切られ命を落としかけた時、相棒のチェンソーの悪魔ポチタと融合し、チェンソーマンとして蘇ります。
その後、公安対魔特異4課のマキマと出会い、彼女の「ペット」としてデビルハンターになることを決意します。
作中の舞台は1997年とされていますが、「ソ連が崩壊していない」など、現実世界とは異なる歴史を辿っていることが示唆されています。
チェンソーマンの無限ループ説・パラレルワールド説
チェンソーマンの物語には、読者が混乱するほどの多くの謎や伏線が張り巡らされており、その中でも特に多くの考察を生んでいるのが「無限ループ説」と「パラレルワールド説」です。
これらの説は、作中に登場する黒枠と白枠のコマの使い分けや、登場人物の言動の矛盾から浮上しました。
ここでは、その代表的な根拠を掘り下げていきます。
黒枠と白枠のコマが持つ意味
チェンソーマンでは、コマの枠線が黒色と白色で描き分けられています。
漫画における黒枠は、一般的に「回想シーン」や「過去の出来事」を表現する手法として古くから用いられてきました。
これは、手塚治虫氏が初めて使用したと言われており、視覚的に過去と現在を区別する役割を果たしています。
チェンソーマンにおいても、このセオリー通りに黒枠が使われているシーンがいくつか見られます。
例えば、姫野が早川アキと出会った過去のシーンや、パワーが猫のニャーコと出会ったシーンでは、いずれも黒枠が使われています。
このことから、チェンソーマンの黒枠は「過去」を意味すると考えるのが自然な流れです。
黒枠が示す「過去」と「パラレルワールド」
しかし、物語が進むにつれて、黒枠のコマが単なる過去の描写ではない可能性が浮上してきます。
一部のシーンでは、回想とは思えない現在の出来事が黒枠で描かれていたり、その前後の描写と矛盾が生じたりすることがあるからです。
こうした矛盾から、「黒枠は過去の出来事ではなく、別の可能性を持つ並行世界、すなわちパラレルワールドを表しているのではないか」という考察が生まれました。
この説が真実だとすれば、デンジたちは何度も似たような世界を繰り返していることになります。
黒枠のコマで描かれた出来事は、以前のループで起きたことや、異なる並行世界での出来事を示しているのかもしれません。
白枠と黒枠でキャラクターの言動が変化する矛盾
さらに、白枠と黒枠のコマでキャラクターの言動に違いがあることも、パラレルワールド説を裏付ける根拠の一つとして挙げられます。
例えば、早川アキをサムライソードから守ろうとした荒井ヒロカズは、白枠のシーンでは生き残っているのに、黒枠の回想シーンでは銃撃を受けて死亡しているように描かれています。
これは、荒井ヒロカズがパラレルワールドでは死亡したが、本筋の世界では生き残ったことを示唆しているのかもしれません。
また、チェンソーマンには「宇宙の悪魔」が登場するため、パラレルワールドの存在も物語の世界観と矛盾しません。
読者の間では、最終的に複数の世界が一つに繋がるのではないかという見方も広がっています。
無限ループ説の根拠となるデンジ関連のシーン
無限ループ説とパラレルワールド説を考察する上で、主人公デンジの言動は最も重要な鍵を握っています。
彼だけが未来の出来事を知っているかのような発言や行動が、物語の様々なシーンで描かれています。
ここでは、デンジの記憶や行動に関する根拠を詳しく見ていきます。
デンジは魔人を知っている?
物語の序盤、公安のデビルハンターになったデンジは早川アキと共に任務に就きます。
この時、デンジは早川アキに「魔人って何?」と尋ねています。
しかし、その直前のエピソードで、デンジがポチタに「悪魔には死んだ人間の体を乗っ取れるやつもいるらしい」と話すシーンが描かれています。
これはまさに魔人のことを指しており、読者からするとデンジの言動に矛盾が生じているように見えます。
この矛盾は、黒枠と白枠の使い分けで説明できるという見方があります。
ポチタと話していたシーンは黒枠で描かれており、早川アキと話していたシーンは白枠で描かれているため、黒枠は「前の世界のデンジ」の会話であり、白枠のデンジは「前の世界の記憶を失っている」と解釈できます。
デンジは似たような世界を何度も繰り返す中で、無意識に前の世界の記憶を口にしているのかもしれません。
デンジの父親の死因に矛盾?
デンジの過去についても、無限ループ説を裏付けるような矛盾が指摘されています。
物語の冒頭で、デンジの父親は「首を吊って死んだ」と語られていますが、第一部の終盤でマキマは「お前の父親はお前が殺した」と衝撃的な事実を告げます。
この父親の死因の矛盾も、デンジが似た世界を無限ループしていることで、世界が変わるたびに出来事が少しずつ変化している可能性を示唆しています。
デンジ自身の記憶も、前の世界の記憶と現在の記憶が混在しているために、食い違った発言をしてしまうのかもしれません。
また、デンジは夢の中で現れる「扉」をポチタに開けることを制止されています。
この扉の向こうには、デンジのトラウマや過去の真実が封印されており、父親を殺したという記憶もその一つではないかという考察もあります。
マキマはデンジの過去を知っていたことから、扉の向こうの出来事を認識していたと考える読者もいます。
幼少期のデンジの腕の影
チェンソーマンの82話では、幼少期のデンジの後ろ姿が描かれていますが、その腕の影がチェンソーのような形になっています。
このシーンが描かれたのは、デンジが父親を殺した事実が判明したタイミングでした。
しかし、デンジがポチタと出会ったのは、父親が死んだ後です。
このことから、デンジはポチタと出会う前から、チェンソーの悪魔と何らかの関係を持っていたのではないかという説が浮上しました。
デンジとポチタの出会いが偶然ではなく必然だったとすれば、この世界は何度も繰り返されていると考えるのが自然です。
デンジの正体は悪魔で、ポチタと分離したことで人間の姿になったのではないか、という大胆な考察も存在します。
彼らの出会いは、失われた記憶を取り戻すための再会だったのかもしれません。
パワーがマキマに殺されるシーンのデンジの記憶
第一部終盤、デンジがマキマのマンションを訪れたシーンも、無限ループ説の重要な根拠となっています。
デンジはマキマに言われるがままにドアを開けますが、開ける直前に「ドアを開けたらパワーが笑ってて…」という未来の記憶を思い出す描写があります。
この記憶の存在は、デンジがすでにこの出来事を経験していることを示しており、無限ループしている可能性を強く示唆しています。
パワーが死亡したシーンには黒枠が描かれていないため、この出来事は今の世界で起きたこととされています。
デンジがこの未来を予知できたのは、過去のループでも同様にパワーがマキマに殺されたためだと考える読者が多いです。
デンジが目指す「普通の人生」とは、無限ループから抜け出し、家族のような存在であるパワーや早川アキが死なない世界で生きることなのかもしれません。
無限ループ説の根拠となるパワー関連のシーン
無限ループ説は、デンジの言動だけでなく、パワーの過去や行動からも考察されています。
パワーが公安に拾われる前の描写や、角の増減に関する描写に、読者の間で違和感が指摘されています。
ニャーコと出会った過去の描写の違和感
パワーは公安のデビルハンターになる前、ニャーコという猫と森の中で暮らしていました。
もともとは食べるために拾った猫に、愛情を抱き名前を付けて可愛がっていたという過去が描かれています。
しかし、アニメ版の7話と9話の描写に矛盾があるという意見があります。
7話では「泥だらけのパワー」が描かれているのに対し、9話の表紙では「綺麗な姿のパワー」が描かれています。
両方のシーンは過去の出来事を描いているにもかかわらず、黒枠が使われているのは7話のみです。
この矛盾は、7話と9話のパワーが異なる世界で存在していた可能性を示唆しているのかもしれません。
パワーの角が4本になるシーンの描写の矛盾
パワーは血を飲むことで力を増しますが、血を飲みすぎると傲慢な悪魔になると言われています。
普段の角は2本ですが、38話と39話では4本に増えていました。
これを見たマキマは、パワーの血抜きを決定します。
しかし、血抜き後、パワーが再登場した41話では、彼女は4本の角を生やしたまま、天使の悪魔と普通に話しています。
これは、角が増えたにもかかわらず、性格が傲慢になっていないという違和感を生じさせています。
このエピソードは、過去の出来事と現在の出来事が混在している可能性を示しており、パワーもまたループの影響を受けているのではないかと推測されます。
無限ループ説・パラレルワールド説のその他の伏線
無限ループ説とパラレルワールド説の根拠は、デンジやパワーだけでなく、他のサブキャラクターの言動や描写からも見出すことができます。
ここでは、物語の細部に隠された伏線を見ていきましょう。
姫野の亡くなったバディの墓石の数
デビルハンターとして長年活動してきた姫野には、早川アキが6人目のバディであることが明かされています。
彼女は定期的に墓参りをしていますが、18話では墓石が6つ描かれているのに対し、19話では4つしかありません。
また、18話の墓石は白枠で、19話の墓石は黒枠で描かれています。
この墓石の数の違いは、姫野が異なる世界で経験した過去を示しているのかもしれません。
姫野が早川アキに死んでほしくないと強く願っていたことから、別の世界では彼がすでに死んでいたと考えることもできます。
荒井ヒロカズの死亡シーンの矛盾
サムライソード一味の襲撃で、荒井ヒロカズは東山コベニを庇って命を落としました。
彼の死は東山コベニの回想シーンで描かれていますが、このシーンは黒枠と白枠の両方で描かれています。
さらに、喉に銃撃を受けたはずの荒井ヒロカズが、別のシーンでは喉の傷が消えている描写も見られます。
この矛盾は、荒井ヒロカズが2つの世界で2度死んだ、または異なる世界の出来事が混在していることを示唆していると考察されています。
東山コベニの回想シーンの違和感
荒井ヒロカズが死亡した回想シーンで、東山コベニの顔やシャツには血が付いています。
しかし、その直後のサムライソードへの強襲シーンでは、血が付いていません。
この東山コベニの姿の違和感も、彼女が経験した出来事が異なる世界のものだった可能性を示しています。
東山コベニの戦闘能力は謎に包まれていますが、もしかすると彼女の強さもループによって変化しているのかもしれません。
サンタクロースが受けたデンジ殺害依頼の描写
サンタクロースがデンジ殺害の依頼を受けるシーンは、物語の54話と64話に登場します。
内容は同じですが、片方は白枠、もう片方は黒枠で描かれています。
また、サンタクロースが読んでいた新聞のデザインや、依頼者の返答の言葉も異なっています。
これは、同じ出来事が異なる世界で起きていることを示していると考える読者が多くいます。
デンジの護衛を指揮していた人物の変更
デンジが各国の刺客に狙われていた際、宮城公安の日下部と玉置が彼の護衛に就きました。
55話では日下部が指揮を執ると言っていたにもかかわらず、59話では玉置が指揮官のような振る舞いをしています。
この突然の指揮官の変更も、黒枠で描かれた直近の出来事と合わせて、異なる世界での出来事を表現している可能性が指摘されています。
マキマの好きな男性のタイプ
デンジがマキマに好きな男性のタイプを尋ねた際、マキマは「デンジ君みたいな人」と答えています。
マキマはチェンソーマンに心酔しており、デンジを利用してチェンソーマンを手に入れようとしていました。
このことから、マキマはすでに別の世界の記憶を持っており、チェンソーマンの正体であるデンジに惹かれていたのではないかという考察があります。
マキマは2つの世界を知る唯一の存在であり、物語の真実を握っていたのかもしれません。
作品のその他の伏線とキャラクター名の由来
チェンソーマンの魅力は、無限ループ説やパラレルワールド説だけでなく、キャラクター一人ひとりに込められた深い意味合いにもあります。
ここでは、キャラクターの名前の由来や、物語の細部に隠された伏線について解説します。
キャラクター名の由来
作者の藤本タツキ氏がインタビューで明かしたキャラクター名の由来は、読者の間で大きな話題となりました。
デンジ
デンジの名前は、当初「ABARA」の駆動電次から来ていると思われていましたが、実は「天使」が由来であることが明かされています。
チェンソーの「電池」を連想させるために、天使に濁点を付けて「デンジ」となったそうです。
彼の純粋さや、堕ちていく姿は、まさに堕天使を思わせます。
早川アキ
早川アキの名前の由来は、世界中で使われているライフル「AK銃」です。
これは、早川アキが最終的に銃の魔人と融合することが決まっていたためだと言われています。
また、マキマへの好意が偽物であったことから、「心の空き」も表現しているという解釈も存在します。
マキマ
デンジが家族を求めていたこと、そしてチェンソーが「木」を切る道具であることから、マキマの名前の由来は「キ」を除いた「ママ」であるとされています。
マキマ自身も対等な存在を求めており、デンジと似た者同士であったことが示唆されています。
第二部では、デンジが支配の悪魔であるナユタの親代わりになっていますが、成長したナユタが母親のような存在になるのかもしれません。
マキマとデンジが映画を見るシーン
マキマはデンジとのデートで映画を見ており、「誰もがつまらないと言う映画」で涙を流しています。
支配の悪魔であるマキマは、普段ほとんど感情を表に出しません。
そのため、この映画には、彼女が本当に求めているものが描かれていたと予想されています。
デンジも映画を面白いと感じていたことから、映画のテーマは「家族」に関する内容だったのではないかと考える読者が多いです。
レゼ編での対比
レゼ編では、随所に「対比」の描写が使われています。
デンジがレゼと出会った時に「花」を吐き出し、別れのシーンでは「花」を食べています。
また、2人が夜の学校のプールでデートするシーンに対し、戦いの最後には海に入っています。
これらの描写は、レゼ編が二人の出会いから別れまで、計算された構成で描かれていることを示しています。
無限ループ説に関するファンの感想と評価
チェンソーマンの無限ループ説やパラレルワールド説は、ファンの間で活発な議論の対象となっています。
読者からの感想をまとめました。
無限ループ説の真相が気になる
多くの読者が、作中で繰り返される出来事に「これはパラレルワールドなのではないか」という違和感を抱いています。
デンジが無限ループしているのだとすれば、最終的にハッピーエンドを迎えることを望む声が多く見られます。
藤本タツキ氏がこの複雑な設定をどのように回収するのか、今後の展開に注目が集まっています。
デンジの記憶の曖昧さに対する考察
デンジの記憶が曖昧なことや、マキマがチェンソーマンについて知っていた理由、そしてチェンソーマンに食べられた悪魔が復活する理由など、作中の謎が読者の想像力を掻き立てています。
特に、デンジの記憶がなぜ曖昧なのか、そして彼は本当に「普通の人間」なのか、という点について多くの考察が寄せられています。
デンジとポチタの正体に対する推測
デンジの名前の由来が「天使」であることから、彼の正体が「堕天使ルシファー」ではないかという推測や、チェンソーマンの能力が「暴食」を司る悪魔ベルゼブブと似ていることから、その正体がベルゼブブではないかという考察もあります。
デンジとポチタが2人で1体の悪魔で、分離したことで記憶を失ったのではないかという見方も存在します。
ポチタが制止していた「扉」の向こうに、彼らの真実が隠されているのかもしれません。
まとめ
チェンソーマンの物語には、黒枠と白枠の使い分け、登場人物の言動の矛盾、そして過去の描写に隠された伏線など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。
これらの要素は、無限ループ説やパラレルワールド説を強く示唆しており、読者の考察をさらに深めています。
現時点ではこれらの説が確定したわけではありませんが、物語の謎を解き明かすための重要な鍵であることは間違いありません。
これからチェンソーマンを読み始める方は、本記事を参考にしながら、作中に隠された数々の仕掛けをぜひ楽しんでみてください。


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