【編集王】なぜ最終回は謎を残したのか?業界のタブーと打ち切りの噂を徹底解剖

更新日:
漫画

【編集王】なぜ最終回は謎を残したのか?業界のタブーと打ち切りの噂を徹底解剖

 

漫画業界の光と影を、元プロボクサーの熱血編集部員「カンパチ」こと桃井環八の視点からシビアかつユーモラスに描き出し、多くの読者を魅了した「編集王」

小学館の「ビッグコミックスピリッツ」で連載された本作は、「売れる漫画が良い漫画である」という編集長の方針に、カンパチが真正面からぶつかっていく姿が印象的でした。

しかし、漫画業界の慣習や問題点の、かなり踏み込んだ部分にまで切り込んだ内容だったため、「打ち切りになったのではないか」という噂も囁かれました。

この記事では、「編集王」の最終回がどのような内容だったのか、そして打ち切りの噂の真相に迫ります。

 

「編集王」とは?作品の基本情報と魅力

まずは、土田世紀の「編集王」の基本データからご紹介しましょう。

連載誌や期間、単行本情報から、この作品が時代を超えて読者を惹きつける理由を探ります。

 

「編集王」の掲載誌と掲載期間

「編集王」は、小学館の青年漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」にて連載されました。

連載開始は1993年12月発売の1994年2・3合併号で、最終回は1997年の44号を飾っています。

作者の土田世紀は、「編集王」の連載前に「俺節」を1990年から連載しており、その後も単発作品を発表しています。

特筆すべきは、2002年に「帰ってきた編集王」が掲載されたことです。

最終回後も関連作品が掲載されたことから、連載終了に際して編集部との間に遺恨のようなものはなかったと考える読者が多いようです。

 

「編集王」の単行本情報

「編集王」の単行本は、すべて小学館から発行されており、現在3つのタイプが存在します。

「ビッグコミックス版」全16巻、「小学館漫画文庫版」全10巻、「ワイドコミックス版」全4巻です。

形式を変えて何度も発行されているという事実は、出版社側が「長く愛される漫画である」という認識を持っていることの証拠と言えるでしょう。

時代を超えて読み継がれる普遍的なテーマが、読者の心を捉え続けているのかもしれません。

 

「編集王」のモデルとなった人物

「編集王」のモデルとなった人物については、小学館の編集者である八巻和弘氏が有名です。

しかし、NHKのBSマンガ夜話の「編集王」の回では、「一人の編集者がモデルというわけではなく、色々な編集者の要素を合わせたものではないか」という見解が示されました。

八巻氏は、西原理恵子を見出したことでも知られる名物編集者で、実際に多くの漫画家の作品に実名で登場したり、登場人物のモデルになったりしています。

複数のモデルが存在するという説は、「編集王」が描く編集者像の多様性や、業界のリアルさを追求した結果であるとも考えられます。

 

「編集王」を彩る主な登場人物とその関係性

物語を動かす個性豊かなキャラクターたちをご紹介しましょう。

彼らの織りなす人間ドラマこそが、「編集王」の大きな魅力です。

 

桃井環八(ももいかんぱち)

本作の主人公で、通称はカンパチ。

「あしたのジョー」に憧れてプロボクサーになったものの、網膜剥離で引退を余儀なくされます。

幼馴染の青梅広道に見かねられ、彼が勤める「週刊ヤングシャウト」編集部でアルバイトとして働くことになります。

ボクサー時代の熱情をそのままに、漫画業界の様々な問題にぶつかっていくその姿は、多くの読者を勇気づけました。

名前の由来は、東京都杉並区の地名「桃井」と「環状八号線」から来ています。

 

青梅広道(おうめひろみち)

桃井環八の幼馴染で、「ヤングシャウト」編集部のデスク。

学生時代は水泳でインターハイ3年連続日本一に輝き、オリンピックのメダル候補とまで言われましたが、病気によるブランクで夢を断念しています。

最終回では海外の支社への出向を命じられ、新たな道へと旅立ちます。

名前の由来は「青梅街道」であり、桃井環八の名前の由来である「桃井」の近くを青梅街道が通っていることから、二人の深い関係性を象徴しているとも言えるでしょう。

 

疎井一郎(そがいいちろう)

「ヤングシャウト」編集長。

データ主義で効率と売り上げを最優先に考える冷徹な人物として描かれます。

しかし、若い頃は担当漫画家「マンボ好塚」のマネージャーである「ベニー八木山」こと仙台角五郎の作品を載せることに奔走する熱血漢でした。

ある過去の出来事を経て、現在の効率第一の編集者へと変貌しましたが、内心ではカンパチや青梅にかつての自分の姿を見出していたと考える読者も多いようです。

名前の由来は不明ですが、その強烈な個性から、政治家の小沢一郎がモデルではないかという噂もありました。

 

マンボ好塚(まんぼこうづか)

代表作「王女アンナ」を持つ、戦後を代表する漫画家。

作中では惰性で漫画を描き続けている姿が描かれますが、桃井たちの尽力により、再び創作への熱意を取り戻し、新作「あした」に取り組みます。

しかし、長年の飲酒により肝硬変を患っており、「あした」を書き上げた直後に心不全で亡くなります。

作者の土田世紀自身が、複数の漫画家と自身がモデルであると語っており、特に土田自身もアルコール依存症で若くして亡くなったことから、マンボ好塚には土田世紀の魂が込められていると考える読者が多くいます。

 

「編集王」あらすじ:漫画業界のリアルに迫る!

主人公の桃井環八(カンパチ)が漫画業界の荒波に揉まれながら成長していく姿は、読者に大きな共感を呼びました。

ここでは、物語の主要な展開をネタバレを含めてご紹介します。

 

第一話のあらすじ~カンパチ「編集王」への第一歩

幼い頃、「あしたのジョー」に夢中になり、ジョーを目指してプロボクサーになった桃井環八。

しかし、成績は芳しくなく、24歳で「万年10回戦ボーイ」として「色物扱い」される日々を送っていました。

そしてついに、恐れていた網膜剥離の宣告を受け、プロボクサーを引退することになります。

失意の環八に、幼馴染の編集者、青梅広道は、大手出版社の漫画雑誌「ヤングシャウト」でのアルバイトを勧めます。

これが、カンパチが漫画業界という新たなリングに足を踏み入れる第一歩となるのです。

 

初期から中期にかけてのあらすじ~編集長とのぶつかり合い

「ヤングシャウト」の編集長、疎井一郎は、売れる漫画を至上とし、売り上げ第一で冷酷な人物として描かれます。

環八は、そんな疎井のやり方に反発し、幾度となくぶつかり合います。

しかし、疎井はかつて、一人の漫画家を売り上げのために潰さざるを得なかったという苦い過去を抱えていました。

その反動で、作家や作品の良し悪しではなく、効率第一の編集者へと変貌したのです。

そして、疎井は環八や青梅に、かつての自分の姿を見出していたのかもしれません。

二人の衝突は、単なる意見の相違だけでなく、漫画への情熱と現実との間で揺れ動く編集者の葛藤を描き出していました。

 

後半部分のあらすじ~ヤングナッツとの攻防

物語の後半では、「ヤングシャウト」を発行する支配社のライバル出版社「講学館」が、香港の大富豪の息子、陳子昂(ちんすこう)に買収されるという大事件が勃発します。

陳は、利益にならない部門を切り捨て、漫画部門の強化を図ります。

その方法は、「ライバルを蹴落とし、市場の美味しい部分を独り占めする」というもので、ヤングシャウトの看板作家を次々と引き抜き、講学館の「ヤングナッツ」で漫画を描かせようと画策します。

これは、当時の漫画業界で実際に起こっていた引き抜き問題などを彷彿とさせ、読者に強い危機感を与えました。

 

ヤングシャウト対ヤングナッツの戦争

陳は、漫画家たちに「ヤングシャウト」の何倍もの原稿料を持ちかけて、全ての作家の引き抜きを試みます。

しかし、若手のリーダー格である骨川サユリがなかなか首を縦に振らないため、他の作家の引き抜きも遅々として進みません。

そこで陳は、骨川の父親が闘牛で作った借金を肩代わりし、さらに恋人との結婚の障害を取り除くという非情な条件を提示します。

骨川は泣く泣くその条件を飲み、ヤングナッツへの移籍を決意します。

これは、漫画家が作品に対する情熱だけでなく、現実的な問題に直面しながら創作活動を続けていることをリアルに描いたシーンと言えるでしょう。

 

勝負の行方

漫画家たちがごっそりと引き抜かれた「ヤングシャウト」編集部では、新たな対応策として「新人を編集者が複数ついて育てる」という方針に転換します。

しかし、編集者の三京稔はそれだけでは不十分だとして、「ヤングナッツの企画に真っ向から、もっと良い企画をぶつける」作戦を提案します。

スパイ作戦は功を奏し、全ての企画において「ヤングシャウト」は「ヤングナッツ」を上回るものをぶつけることに成功しました。

これは、編集者の力量と情熱が、漫画の面白さを左右するというメッセージを強く打ち出しているシーンです。

 

最終回の謎を解く鍵となる再販制度

「ヤングシャウト」側は、疎井編集長も先頭に立ち、「ヤングナッツ」と陳への対抗策を打ち出していきます。

このままでは埒が明かないと考えた陳は、出版業界の最後の砦とも言える「再販制度」へ踏み込み、テレビの討論番組での直接対決を申し込みます。

「出版が文化やって言い切るんなら…再販制度が撤廃されたあかつきにゃあ…おめーら、文化と一緒に死ねるゆうんやな?」という陳の挑発的な煽りに対して、疎井編集長は「もちろんだ。」と毅然と返します。

この再販制度を巡る議論は、「編集王」が業界のタブーに切り込んだ象徴的なシーンとして、多くの読者の記憶に残っています。

 

「編集王」の最終回と打ち切りの噂の真相に迫る

「編集王」が「打ち切りだった」という噂は、長くファンの間で囁かれてきました。

その最終回はどのような内容で、なぜ打ち切りを彷彿とさせるという見方があるのでしょうか。

 

打ち切りの噂がある最終回のあらすじは?

最終回では、陳は出版から撤退し香港へと帰国します。

そして、青梅は海外の出版業界へと旅立ち、それぞれの道を進むことになります。

疎井編集長は、若かりし頃に担当していた漫画家、マンボ好塚と経験した、ある夜のことを思い出していました。

二人が熱く打ち合わせをしていたマンボ好塚のアパートに、突如として「漫画の神様」と呼ばれる人物がやってきます。

彼はマンボの作品を称賛し、「競いましょう、マンボさん。あなたには、その資格があるのだから。」と告げるのでした。

このシーンは、漫画家としての誇りや、創作への情熱を再認識させるような、希望に満ちた描写となっています。

 

打ち切りを彷彿とさせると言われているラストシーンは?

「ヤングシャウト」編集部一同が、飛行機に乗り海外へと旅立った青梅を見送るシーン。

そして、疎井編集長は「漫画の神様」が言った言葉の最後を思い出していました。

「競いましょう、マンボさん。あなたにはその資格があるのだから。あなたにも、そして誰にでも…」

そして、第一話の冒頭シーンがもう一度、最終回のラストを飾るのです。

このラストシーンが打ち切りを彷彿とさせると言われるのは、物語が急に幕を閉じたように感じる読者がいるためかもしれません。

特に、再販制度の問題や、カンパチたちの今後の活躍といった、まだ語られるべき続きがあったのではないかという見方があるようです。

 

「打ち切り」の真相は?

「編集王」が打ち切りだったという噂で最も多かったのが、「書籍の再販制度」を扱ったことが出版界ではタブーとされ、連載が続けられなくなったという説です。

作中では、再販制度の撤廃を提唱した陳が最終的に撤退する形で、漫画としては再販制度の維持が結論になっています。

しかし、この問題が作品に与えた影響については、明確な情報が公開されていません。

モデルとなった八巻氏も詳細を明らかにしておらず、作者である土田世紀も2012年に逝去されているため、編集側が真相を明かさない限り、「打ち切り」の具体的な理由は不明のままです。

一部の読者は、作中で描かれた「キャンディ・キャンディ問題」のような、著作権に関するデリケートな内容が影響した可能性も指摘しています。

「編集王」には「キャンディ・キャンディ」のラストシーンを描いた部分がありましたが、この作品は原作者と作画者の間で係争が起きており、権利関係が不確定でした。

雑誌掲載時や単行本発刊時には許諾を得ていなかったため、ワイド版を発行する際に初めて許諾申請が行われ、結果的に該当部分を白紙にし、お詫びのメッセージを掲載することで解決しました。

このようなデリケートな問題に触れたことが、連載に何らかの影響を与えた可能性も否定できません。

 

「編集王」は漫画出版のタブーに果敢に挑んだ作品だった!

土田世紀の「編集王」は、シビアな現実とユーモアを絶妙に織り交ぜながら、漫画出版業界のタブーにも果敢に切り込んだ作品でした。

特に、再販制度の問題がクローズアップされた結果、「打ち切りは再販制度を取り上げたせい」という噂が生まれたようです。

「何らかの理由がある」という記述はいくつか見受けられるものの、それが何なのかは未だ明らかにされていません。

しかし、その内容は出版業界のリアルを映し出し、読者に深い考察を促すものでした。

明確な結論が出ないままとなった「打ち切り」の噂は、かえってこの作品が持つ「業界の深部を描き切った」という印象を強めているのかもしれません。

漫画「編集王」は、時代を超えて、漫画業界の過去と現在、そして未来を考えるきっかけを与え続けてくれる作品と言えるでしょう。

コメント