『HUNTER×HUNTER』キメラアント編のラスボスとして、読者に圧倒的な絶望と感動を与えたキャラクター、メルエム。
その強さはもちろんのこと、王として生まれ、一人の少女との出会いによって人間性を獲得していく彼の物語は、多くのファンの心を掴んで離しません。
しかし、その圧倒的な存在感とは裏腹に、メルエムの出自には多くの謎が残されています。
「メルエムは誰の生まれ変わりだったのか?」という問いは、ファンの間で最も熱い議論の一つです。
この記事では、作中の描写や設定を徹底的に紐解き、メルエムの出自にまつわる謎、人間性の変化、そして「ポックル説」などの真相に迫ります。
メルエムとは?
生まれながらの絶対王者「種の王」
メルエムは、キメラアントの女王から生まれた王の個体です。
その姿は、鉄兜状の甲殻に覆われた頭部、所々縞を帯びた緑の体色、そして注射器のような針が生えた長い尾が特徴的です。
一人称は「余」で、常に殿様のような口調で話します。
討伐時の年齢はわずか生後40日であり、その短い生涯において、己が「種の全てを託された王」であるという自覚と自負を生まれながらに持っていました。
非常にプライドが高く、自身の発言や命令への拒否、偽り、誤魔化しは断じて許しません。
自分自身に対しても厳しく、一度口にしたことは絶対に曲げず、間違いがあれば自らに重い罰を科すほどでした。
また、非常に短気で荒っぽい一面もあり、「二度言わすな」が口癖でした。
当初は自分以外の全ての生物を「餌」と認識しており、同種である兵隊蟻すら平然と殺し、喰らっていました。
人間を家畜以下の存在としか考えておらず、命乞いをする踊り子たちに「お前らは豚や牛の命乞いに耳を貸したことがあるか?」と吐き捨てるなど、その冷酷さは際立っていました。
護衛軍に対してもある程度の仲間意識は持っていましたが、意に沿わない行動をとろうものなら、自らの手で殺害することにためらいを抱きませんでした。
メルエムの能力
メルエムの身体能力は並みのキメラアントを遥かに凌駕し、その一挙手一投足は常人には視認すらできませんでした。
手加減ありきの決闘でも、細かな所作に残像が生じ、生後間もないとは思えない武の達人のような動きを見せます。
特に鋭い針を備えた尾は伸縮自在な武器となり、鞭のように振るって相手を叩き潰す、あるいは針で相手を貫く戦法を得意としました。
この尾で殴られた生物は基本即死で、護衛軍クラスでようやく耐えられるレベルでした。
身体の強度もキメラアントの中でトップクラスで、ネテロの百式観音による100を超える打撃を浴び続けてもダメージはほとんどなく、至近距離で核兵器級の大爆発を浴びても辛うじて生存しました。
念能力は放出系能力者であり、獲物のオーラを食うことで自分のものにできる能力を持ちます。
この能力により、食べた相手のオーラを自分のものにし、身体の傷を癒したり、欠損した部位を再生させたりすることが可能でした。
貧者の薔薇による爆撃を受け、瀕死の重傷を負った際にプフとユピーを摂取したことで、彼らの能力も使用できるようになり、変形や強力なビームを発射する芸当を見せました。
さらに、宮殿全体に加えその周囲数キロを覆い尽くすほどの超広範囲の「円」を瞬時に展開できるようになりました。
メルエムの出自の謎:摂食交配と「元の人間」
キメラアントの生態「摂食交配」
メルエムの出自が謎に包まれている最大の理由は、キメラアントの特殊な繁殖システム「摂食交配」にあります。
この摂食交配は、女王が食べた他の生物の遺伝子や形質を、次に産む子供に色濃く反映させる能力です。
キメラアントは、この能力によって他の生物の優れた点を効率的に取り込み、驚異的なスピードで進化を遂げます。
摂食交配の特異な点は、単なるDNA情報だけでなく、食べた生物が持つ「記憶」や後天的に習得した「念能力」といった情報まで継承できることにあります。
女王は捕食した生物を体内で瞬時に分解・解析し、その特性を次世代のキメラアントの設計図に組み込むのです。
元の人間と記憶の継承
メルエムを産むにあたり、女王は「選りすぐりの栄養」として、特に人間を大量に摂取しました。
これは、特定の個人の能力や記憶を再現するためではなく、様々な生物の長所を掛け合わせ、最も強力で完璧な「王」を創造するためでした。
その結果、あまりにも多様で膨大な情報が複雑に統合され、特定の一個人の記憶や人格は、広大な情報の海の中に埋もれてしまったと考えるのが自然です。
他の多くのキメラアント、特に師団長クラスの個体は、元の人間だった頃の記憶や人格の一部を保持していました。
この明確な対比は、メルエムがいかに「王」として異質な存在であったかを浮き彫りにします。
ここでは、元の記憶を保持していた主要なキメラアントを比較対象として見ていきましょう。
キメラアント名 | 元の人間 |
---|---|
コルト | クルト |
ウェルフィン | ザイカハル |
メレオロン | ジェイル |
ジャイロ | ジャイロ |
シドレ(レイナ) | レイナ |
これらの個体は、人間だった頃の記憶や目的意識を色濃く残していました。
しかし、メルエムはそれらとは比較にならないほど多くの情報から成る、特別な存在でした。
彼の行動原理は、全てが生まれながらの「王」としての生物学的本能と、生まれてから後に出会う軍儀の天才少女コムギとの関係性によってのみ形成されています。
もし魂の奥底に元の記憶が眠っていたのであれば、何かの拍子にフラッシュバックが起きたり、無意識のうちに人間的な行動を取ったりといった描写があったはずですが、そうした伏線は一切見られませんでした。
噂と考察:「誰の生まれ変わり」説の真相
メルエム=ポックル説
ファンの間で根強く囁かれる説の一つに「メルエム=ポックル説」があります。
この説は、ポックルがメルエムの「元の人間」そのものであるという説ではなく、メルエムの念能力にポックルの影響が見られるのではないか、という考察にあります。
ポックルは、キメラアントに捕らえられた最初の念能力者の一人であり、ネフェルピトーによって脳を詳細に分析された後、女王の食料になった可能性が極めて高いです。
彼の念系統は放出系でした。
一方で、メルエムが食べた者のオーラを光子として周囲に放つ能力を見せたことから、彼の念系統も放出系である可能性が高いと推測されています。
ここから、女王が初めて本格的に分析した念能力者であるポックルの情報が、生まれてくる王の能力設計のベースの一つ、あるいは雛形になったのではないか、という見方が生まれました。
これはあくまで能力への影響であり、ポックルの人格や記憶がメルエムになったわけではない、というのが真相に近い見解でしょう。
メルエム=クルト(コルト)説
メルエムの元の人間として、クルトやその妹レイナの名前が挙げられることもあります。
しかし、この説は作中の描写から明確に否定することが可能です。
前述の通り、クルトは鷹の姿をしたキメラアント「コルト」として、レイナもまた「シドレ」という名のキメラアントとして、それぞれ独立した個体として生きていたことが確認されています。
一人の人間が、複数の異なるキメラアントの元になることは、摂食交配のシステム上考えられません。
この説は、キメラアント編の悲劇的な人間関係の中で、主要なキャラクターたちの間に何とか繋がりを見出したいという、ファンの願望や想像が色濃く反映された考察の一つと言えるでしょう。
メルエムの人間性:生まれか育ちか
コムギとの出会いと「人間性」の獲得
メルエムが物語の終盤で見せた驚くべき人間性の開花は、「元の人間」に由来するものではなく、ひとえにコムギとの出会いを通じて後天的に学習・獲得したものであると断言できます。
彼の物語は、生まれ持った性質がいかにして他者との関わりによって変化していくかを描いた、壮大な記録でもあるのです。
当初、人間を単なる食料としか見ていなかったメルエム。
しかし、暇つぶしとして始めた盤上の遊戯「軍儀」で、盲目の少女コムギに一度として勝つことができませんでした。
絶対的な力では決して測れない「才能」という尺度、そして命を懸けて盤に向かうコムギの純粋で穢れなき姿に触れたことで、彼の価値観は根底から覆されました。
コムギを守ろうとして無意識にネテロの攻撃を避けたり、自らの未熟さを償うために自らの腕を引きちぎったり、毒に侵されながらも最期にコムギの名前を思い出そうと苦悩したりする姿は、初期の暴君からは想像もできないほどの変化です。
これは、彼の内に眠っていた元の誰かの優しさが目覚めたのではありません。
メルエムという一個体が、コムギという他者と関わる中で、ゼロから「敬意」「恐怖」「愛」といった複雑な感情を学び、獲得していった、全く新しい人間性の誕生の瞬間だったのです。
「軍儀」というゲーム名は、まさにメルエムが「軍蟻」から「軍儀」へと変化することを象徴しています。
【ハンターハンター】メルエムとコムギの関係が泣ける!出会いから最期まで深掘り解説
メルエムとポックル:似ているようで異なる存在
ポックルの人間性(傲慢さと自己評価)
メルエムとポックル、この二人の心性を対比してみると、興味深い点が見えてきます。
ハンター試験で、ポックルは自分とは関係のなかったクラピカの合格に因縁をつけるなど、自分の考えた通りの展開じゃないことへの不満を平然と口にしていました。
後で謝罪はしていますが、どこか言い訳じみた態度が見え隠れします。
彼の行動には、自己中心的な考えや、やや傲慢な部分が垣間見えます。
また、キメラアント編で再登場した際には、グループで一番戦闘力の高かったにもかかわらず、ポンズと共にキメラアントに捕らえられてしまいました。
ポックルは、ポンズという女性を好み、その心性はかなり自己愛的でした。
ポンズは、自分の使役する蜂で他人を死に至らしめても悪びれることはなく、仲間が無惨に喰い殺される状況を目の当たりにしても、冷静に自身の生存確率を上げるための行動を取りました。
このような自己愛の強い女性を好むポックルの姿は、メルエムが愛したコムギとは対照的です。
メルエムの人間性(潔さと他者への敬意)
一方、メルエムはコムギの覚悟を知って、己の卑劣さや覚悟のなさを自覚したとき、言い訳を一切せず、罰として自らの腕を千切りました。
自分の卑劣さを認めるその潔さは、ポックルとは全く異なります。
また、「俺の王はジャイロだ、お前じゃない」と叫んだウェルフィンを「その者に会えるといいな」「人として暮らすがいい」と祝福しました。
自分の意のままにならず、従わない相手に対しても、服従して命を護るより、信念を命がけで通す生き方を選ぶ人間を好むようになりました。
メルエムが愛したコムギは、自分は軍儀ができなければゴミだと言い切るほど自己評価が低い女性でした。
しかし、総帥と対戦していると認識しながらも、決してわざと負けたりはしませんでした。
メルエムは、特定の分野で自分が全く勝てない相手、男を立てない女性に惹かれました。
また、パームのオーラを「自分の知る中で一番美しい」と評しました。
逆に、命乞いをした踊り子たちには侮蔑を向け、恐怖を煽りました。
メルエムはおそらく、家族や仲間のために一生懸命で、かつ自分より「格上」の女性に好意を抱くようになったのかもしれません。
結論:メルエムは誰の生まれ変わりか?
特定の誰かではなく、「無数の生命情報の集合体」
これまでの全ての考察を総合すると、メルエムの「元の人間」は特定の誰か一人ではなく、「女王が王を創るために捕食した、無数の生命情報の集合体」と結論付けるのが最も合理的かつ妥当な見解です。
作中のあらゆる描写が、メルエムが他のキメラアントとは全く異なる、特別な出自を持つことを示唆しています。
ポックルやクルトといった特定の個人に由来するという説は、いずれも決定的な証拠に欠けており、物語の整合性という観点からも矛盾が生じます。
メルエムは、過去の誰かの人生をなぞる「生まれ変わり」として生を受けたのではありませんでした。
彼は、暴力と破壊の化身として生まれながら、一人の少女との出会いを経て「個」として目覚め、愛を知り、その短い生涯を静かに終えました。
出自ではなく、生き方で「個」を確立した存在
メルエムの存在は、我々読者に対し、生まれや出自がいかに過酷なものであっても、その後の生き方、誰と出会い、何を大切にするかによって、その存在の価値や意味は変えられるのだと、力強く問いかけているのかもしれません。
彼は、生まれながらに「王」という役割を与えられていましたが、コムギとの出会いを通じて、初めて「メルエム」という個としてのアイデンティティを獲得しました。
女王が死の間際に「メルエム」と名付けていたことをネテロとの戦いで知った時、そして最期にコムギに自分の名を呼んでほしいと願った時、彼は蟻という種から完全に脱却したのです。
皮肉にも、ネテロの「人と蟻とは相容れない」という指摘を、メルエムは最後の最期で否定してみせました。
彼は、出自ではなく、自らの選択と経験によって、人間性を獲得し、「個」を確立した存在だったのです。
メルエムの短い生涯が問いかける「人間とは何か」
『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編は、「そもそも人間とは何をもって人間であるか」ということを問いかけている物語だと考える読者は多いです。
それは、遺伝子という人間とそれ以外を容易に切り分けることができる便利な基準を奪われたときに、より難しくなる問いです。
同じ生物であるから人間と言っていいのか?
あるいは、違う生物だったとしても人間は存在するのか?
この物語の結末は、人間以外の存在でありながら人間になろうとしたメルエムと、人間の中にいた人間以外の存在(貧者の薔薇)という皮肉な対立を描き、この問いをさらに深めています。
メルエムとコムギの最期の場面は、二人の命が尽きようとする中で、二人だけの小さな人間社会が構築された瞬間でした。
そこには、社会の合意形成を必要としない、互いを認め合った人同士の世界があったのです。
「人間」という属性は、最初から与えられたものではなく、自らの生き方によって獲得するものではないか、とメルエムの生涯は我々に語りかけているのかもしれません。
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