
冒険・歴史ロマン・文化・狩猟グルメ、そしてLOVE&GAGが全部煮込まれた和風闇鍋ウエスタン『ゴールデンカムイ』の単行本第11巻は、大雪山からの脱出劇を経て、杉元たちが新たな強敵、そして人間の「愛」と「狂気」が絡み合った事件に遭遇する展開が描かれています。
前巻で白石由竹を奪還した杉元たちは、追っ手の意表を突くため十勝を経由して釧路へ向かうことを決めますが、その道中で遭遇するのは、第七師団のさらなる闇、そして残虐で猟奇的な犯罪者たちでした。
この第11巻は、「凶悪な二人」と恐れられた実在の強盗カップルの壮絶な最期、尾形百之助のトラウマに深く根差した過去、そして獣に恋した学者・姉畑支遁という、鶴見中尉をも凌駕するほどの特異な「変態」が登場し、物語の濃度とエグさが極限まで高まっています。
大雪山からの生還と鯉登少尉の新たな任務
極寒の大雪山で、エゾシカの死骸の中で寒さを凌いだ杉元、アシリパ、白石由竹の三人は、無事に生還を果たし、今後の行動を決定します。
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白石の寝言とヒグマの撤退劇
エゾシカの皮を被って温まっていた杉元たちのもとへ、エゾシカの死骸の臭いを嗅ぎつけた数体のヒグマが集まります。
絶体絶命の緊張状態の最中、毛皮から引きずり出された白石の「おぎゃあ」という叫ぶような寝言が響き渡り、なぜかヒグマたちは去って行きます。
読者からは、「赤ん坊になった夢でも見たのだろうか」と、白石の予測不能な行動が、極限状態でのユーモアとして機能しているという意見が多くあります。
杉元は、追っ手の意表を突くために、網走へ下山すると思わせておいて、十勝へ下山し、釧路へ寄るという大胆な提案をします。これは、詐欺師・鈴川聖弘から、囚人が釧路にいたという情報を得ていたからです。
鶴見中尉の処罰と鯉登少尉の過去
一方、小樽では、前巻で杉元たちを逃した鯉登少尉が、鶴見中尉から下される処罰に戦々恐々としていました。
鯉登は、手に入れた刺青人皮を自ら着て見せ、鶴見をなだめようとしますが、鶴見は彼に「旭川での任務を外れろ」と命じつつ、別の極秘任務を与えます。
鶴見中尉が鯉登に下した「別の任務」は、今後の物語において鯉登少尉の薩摩閥としての立ち位置や、彼の秘められた過去(幼少期の誘拐事件など)を深く掘り下げていく伏線となります。
鶴見中尉が、鯉登少尉を処罰するだけでなく、重要な任務を与え続ける姿勢からは、鶴見が鯉登の運動能力や頭脳を高く評価し、彼を自身の懐刀として深く心酔させていることが分かります。
尾形百之助の「あんこう鍋」と凄惨な愛憎劇
杉元たちが山を下る道中、同行していた尾形百之助の暗い過去が、彼が語る「好物」の思い出を通じて、初めて深く描かれます。
尾形が抱える父への愛憎と「あんこう鍋」
山中でネズミを捕まえて飢えを凌ぐ杉元たちの中で、アシリパが「尾形の好物は何だ?」と尋ねた時、尾形は自身の父親、花沢幸次郎中将との複雑な思い出を回想します。
尾形の父・花沢幸次郎は、天皇に直結する軍人であり、世間体を気にするあまり、浅草の芸者であった尾形の母親との関係や、尾形本人を「厄介」だと感じていました。
幸次郎が実の妻との間に子供ができた途端に姿を消したことで、尾形の母親は精神を病み、幸次郎が「美味しい」と言ってくれた「あんこう鍋」を、幸次郎が戻ってきてくれると信じて、あんこうが獲れる時期には毎日作り続けるという狂気に陥ります。
尾形にとって、あんこう鍋は母親の狂気と、決して満たされることのない父親への承認欲求の象徴であり、「どんなに美味しい料理でも、それは時に複雑な思い出となって残る」という読者の感想にもあるように、彼の心の闇を深く表すモチーフとなっています。
母を殺した尾形の「復讐」
幼い尾形は、祖父の古い銃で鳥を撃ち、肉を持ってくることで、母親にあんこう鍋を作り続けさせました。
しかし、彼は祖父母がいない間に殺鼠剤をあんこう鍋に混ぜ、母親を殺害します。
尾形は、「少しでも母に対する愛情があれば、父・花沢幸次郎は葬式に来て、母は最後に会えるだろう」という切実な思いでこの行動に出たと考えられます。
しかし、父親は葬式に来ることはなく、尾形の幸次郎に対する感情は怒りと憎悪に変わり、後の復讐へと行動を移していくことになります。
このエピソードは、尾形が単なるスナイパーとしてだけでなく、深い愛憎に囚われた、極めて人間的で悲劇的なキャラクターであることを示しています。
「凶悪な二人」:稲妻強盗と蝮のお銀の壮絶な愛
杉元たちが十勝へ向かう道中で、北海道各地で強盗殺人を繰り返した実在の凶悪犯カップル、稲妻強盗と蝮のお銀をめぐる事件に遭遇します。
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サㇰソモアイェㇷ゚と最恐カップルの出会い
道中、白石が蝮に噛まれるという騒動が起こり、アシリパが持ってきた薬草で事なきを得ますが、アシリパは、噛みついたのが「恐ろしくて声に出せない」という意味の大蛇、『サㇰソモアイェㇷ゚』でなかったことに安堵します。
直後、杉元と白石が座っていた丸太が突如動き出し、それが巨大な蛇(または大蛇のように見える何か)であったことに、二人は恐怖のあまり逃げ出します。
このエピソードは、物語からやや脱線した娯楽要素でありつつも、アシリパが語るウエペケㇾ(アイヌの民話)の「蛇は死んだ盗賊の成れの果て」という言い伝えが、その後の「凶悪な二人」の登場を暗示しています。
その「凶悪な二人」とは、強盗罪で樺戸集治監から脱走した実在の人物、稲妻強盗こと坂本慶一郎と、北海道各地で旅人を殺害した実在の女賊、蝮のお銀です。
二人は惹かれ合い、共に悪行を重ねますが、坂本にはある秘密が隠されていました。
読者からは、この二人の登場を「恐い者同士の対決」「この時代の『アウトレイジ』のようだ」と表現され、物語のバイオレンスな側面を強化しています。
ヤクザと軍隊との三つ巴の死闘
お銀と坂本は、刺青人皮が賭場にあるという噂を聞きつけ、用心棒の亀蔵と馬吉を誘い、賭場への襲撃を決行します。
二人の残虐な手口は凄まじく、お銀は小ヤリで監視役を刺殺し、賭場の店主を脅して刺青人皮を手に入れます。
しかし、彼らの行動は「飛んで火にいる夏の虫」となり、建物ごと鶴見中尉率いる第七師団に包囲されてしまいます。
第七師団の容赦ない銃撃に対し、坂本は亀蔵を盾にして逃げ、お銀は馬吉に食用油を撒かせて二階堂歩兵や鯉登少尉の追跡を阻みます。
炎と銃弾が飛び交う中、坂本は「俺は稲妻だぜ、奴らの弾より速く走ってみせるさ」と、自ら囮となり、愛するお銀を逃がそうとします。
しかし、坂本は二階堂の仕込み銃と鯉登少尉の追跡を振り切ったかに見えましたが、建物の外で待ち構えていた鶴見中尉が放つ機関銃の弾丸に、容赦なく撃ち込まれてしまいます。
血の涙と壮絶な最期
愛する坂本の壮絶な最期を目の当たりにしたお銀は、目から血の涙を流し、「幸せなまま終わりにしたいの」と坂本に最後の接吻をします。
鶴見中尉は「一緒に地獄に落としてやる」と銃を向けますが、お銀は瞬時に鶴見の足元に小ヤリを刺し、首筋に小ヤリを刺そうと襲いかかります。
しかし、鯉登少尉の刀によってお銀の首は無残にも斬り落とされ、その首は最後に鶴見の足にかぶりつくという、凄絶な最期を遂げます。
この「和製ボニー&クライド」とも称されるカップルの壮絶な最期は、読者から「リアルさを追究した見事な完成度」と評されており、彼らの狂気的な愛の強さを物語っています。
そして、この「凶悪な二人」には、読者を驚かせるある秘密が隠されていたことが示唆され、次巻への伏線となります。
獣に恋した学者・姉畑支遁の登場と谷垣の受難
凶悪カップルとの死闘の後、物語は再び谷垣源次郎と、彼を追う地元アイヌの人々、そして猟奇的な犯罪者へと移ります。
谷垣源次郎の危機とインカラマッの再会
谷垣とインカラマッ、チカパシは、アシリパの祖母の安否を確認しつつ、旅を続けていましたが、この近辺で家畜や鹿を惨殺し、粗末に扱う人間がいるという噂に遭遇します。
地元のアイヌの男たちは、谷垣が所持していた二瓶鉄三の猟銃を指摘し、この一連の事件の犯人だと疑い、谷垣を追い回します。
逃亡を続けていた谷垣は、ついにアイヌの男たちに捕まってしまいます。
一方、杉元とアシリパは、池で獲った丹頂鶴を煮て食べていた時、遠くからインカラマッとチカパシが、谷垣の「大変な事」を訴えながら駆け寄ってきます。
チカパシの訴えとインカラマッの話から、杉元たちは、道中で見つけた血まみれのエゾシカの死骸の件と、谷垣が追われている事件が関連していることを確信します。
獣を愛し、獣に恋した学者・姉畑支遁
谷垣がアイヌの男たちに追われるきっかけとなったのは、彼が出会った姉畑支遁という学者でした。
北海道の植物園を調査しているという姉畑は、山中で半裸で大木に飛びつき、狂ったように木を切りつけるという猟奇的な行動をしていました。
彼は、チカパシに木や植物に関する豆知識を話すなど、知的な一面を見せますが、実は「囚人の中に学者がいる」という白石が聞いた噂の人物であり、あちこちで家畜を殺し回る猟奇的犯行の真犯人でした。
そして、翌朝には姉畑と共に二瓶の猟銃も無くなっており、姉畑が谷垣に罪をなすりつけたことが判明します。
さらに、姉畑は「ヒグマに恋をした」という、常軌を逸した「恋」を抱いており、この「度が過ぎた恋」のために、杉元たちはえらく振り回されることになります。
読者からは、「またまた、変わったことで快感を得る者が現れてしまった」「こんな人間の心理の行方もよく読み取っている」と、本作に次々と登場する「変態」たちの多様性と深さに驚きと関心が集まっています。
姉畑支遁というキャラクターは、本作の「愛と狂気」のテーマを、さらに極端な形で体現していると言えます。
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まとめ:狂気の連鎖と真犯人への追跡
『ゴールデンカムイ』第11巻は、前巻から続く第七師団との攻防に加え、実在の凶悪カップル、稲妻強盗と蝮のお銀の壮絶な愛憎劇、そして尾形百之助の暗い過去が描かれ、物語に深みとバイオレンスな魅力が加わりました。
| 主要な出来事 | 稲妻強盗と蝮のお銀の壮絶な最期と鶴見中尉との激突 |
| 新たな登場人物 | 稲妻強盗・坂本慶一郎、蝮のお銀、学者・姉畑支遁 |
| 物語の転換点 | 尾形百之助の過去が深く掘り下げられ、彼が抱える愛憎が判明 |
| 新たな事件 | 獣に恋した学者・姉畑支遁による猟奇殺人と谷垣の逮捕 |
| 第七師団の動き | 鯉登少尉が杉元たちを逃した責任を問われ、新たな極秘任務に就く |
杉元は、アイヌの男たちに捕らえられた谷垣を救うため、尾形と取引しつつ、「三日以内に真犯人・姉畑支遁を連れてくる」という条件で、谷垣を小熊用の檻に閉じ込めるという窮地を脱します。
尾形が「頼めよ『助けてください尾形上等兵』」と上から目線で迫るのに対し、谷垣が軍を降りたことを理由に拒否するやり取りは、二人の関係性と立場の違いを明確に示しています。
杉元たちは、「ヒグマに恋をした」という姉畑支遁の狂愛と、彼が持つ刺青人皮の情報を得るため、真犯人である姉畑を追跡することになります。
鯉登少尉の新たな任務、そして姉畑支遁という異色の変態との対決が、次巻でどのように展開していくのか、期待が高まります。
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