
『キングダム』の中でも、異彩を放つストーリーとして多くの読者に強烈な印象を残しているのが「嬴政(えいせい)加冠編」、通称「毐国(あいこく)反乱編」です。
戦国七雄が覇を競う中華において、一時的に「八番目の国家」として成立の可能性を秘めた毐国。
この騒乱は、嬴政と呂不韋(りょふい)の最終決戦という側面も持ち合わせており、物語の大きな転換点となりました。
今回は、この謎多き毐国について、その成立経緯から滅亡までをネタバレを交えながら深掘りしていきます。
果たして毐国は史実に実在したのでしょうか? そして、『キングダム』では何巻で描かれたエピソードなのか、詳しく見ていきましょう。
『キングダム』の毐国(あいこく)とは?
『キングダム』は、原泰久による日本の漫画で、『週刊ヤングジャンプ』にて2006年から連載されています。
2025年3月18日には最新刊の75巻が発売され、累計発行部数は2025年4月時点で1億1千万部を突破する大ヒットを記録しています。
古代中国の春秋戦国時代末期を舞台に、天下の大将軍を目指す少年・信と、中華統一を志す秦の若き国王・嬴政の成長と活躍を描く歴史大作です。
テレビアニメは第5シリーズまで放送されており、実写映画も大ヒットするなど、幅広いメディアで展開されています。
政争の渦中に生まれた「幻の八番目の国」
秦国が最大の危機であった合従軍を乗り越え、外征を推し進める中、秦の首都・咸陽(かんよう)では、嬴政と呂不韋の政争が最終局面へと向かいつつありました。
そんな緊迫した状況下で突如として建国が宣言されたのが、毐国です。
当時の戦国時代は「戦国七雄」と呼ばれる七つの大国が覇権を争っていましたが、毐国は一時的に「八番目の大国」として成立しかけた、まさに「幻の国」と言える存在でした。
毐国は、秦の太原(たいげん)一帯を領土とし、地理的には秦だけでなく東の趙とも接していました。
秦の首都である咸陽よりも趙の首都・邯鄲(かんたん)に近いという立地も、この国の異質さを際立たせています。
『キングダム』では、この毐国建国から反乱、そして滅亡までの一連のエピソードが、複数巻にわたって詳細に描かれています。
楚国との密接な関係
毐国が独立国家として建国できた背景には、複数の要因がありますが、中でも楚国との関係が深く関わっていました。
当時の秦は、成蟜(せいきょう)の反乱を収めてから間もなく、経済的にも対外的にも動きづらい状況にありました。
そこに毐国の独立宣言が飛び出し、さらに楚国が軍を動かしたことで、秦は毐国問題と楚国からの防衛という二正面作戦を強いられることになります。
この秦を挟撃する状況は、毐国で信任を得ていた趙高(ちょうこう)によって描かれたものとされています。
また、毐国は武官や文官を広く集めており、その中には楚国から派遣された虎歴(これき)という人物もいました。
虎歴は毐国の大臣にまで登り詰めますが、その実態は楚国から送り込まれた存在であり、毐国建国には楚国の影響が色濃く反映されていたことがうかがえます。
毐国建国の首謀者たち
毐国の建国は、表向きの君主と、その裏で糸を引く人物の思惑によって進行しました。
ここでは、毐国建国を直接主導したキャラクターたちを紹介します。
名目上の君主:嫪毐(ろうあい)
毐国の名目上の君主となったのは、嫪毐です。
彼は元々、秦の太后(たいこう)の伽(とぎ)の相手を務めるため、呂不韋の命令で宦官(かんがん)のふりをして後宮に入り込んだ男でした。
太后の伽を務めるだけの役割でしたが、太后の心中に隠された孤独や苦悩を察し、彼女に忠義を尽くそうと考えるようになります。
しかし、彼は本質的に愚鈍な男であり、才ある廷臣たちや楚国をはじめとした各国の思惑に乗せられる形で、毐国の君主という地位に祭り上げられていきました。
| 役割 | 毐国の名目上の君主 |
| 出自 | 呂不韋の命で太后の伽の相手として後宮入り |
| 特徴 | 愚鈍ながらも太后に忠義を尽くそうとする |
建国の主導者:秦太后(趙姫)
嫪毐を名目上の君主に据えつつも、毐国建国を実質的に主導したのは、秦の太后こと趙姫です。
彼女はかつて「傾国の美女」と称されるほどの美貌を持っていましたが、許嫁であった呂不韋に利用されたことや、趙での屈辱的な日々を経て、全てを憎悪するような性格へと変貌していました。
毐国建国に際しては、後宮勢力としての権力を存分に発揮し、その強い執念が物語を大きく動かします。
| 役割 | 毐国の実質的な主導者 |
| 性格 | 美貌を持ちながらも、過去の経験から全てを憎悪する |
| 目的 | 嫪毐との間に生まれた子供たちの安住の地を求める |
太后が毐国を建国した目的
全てを憎悪していた太后ですが、毐国建国の背景には、彼女自身の心の変化がありました。
そのきっかけとなったのは、嫪毐との間に生まれた2人の子供の存在です。
後宮において、これは大罪にあたる行為であり、太后はこれまで各国の思惑や民衆の感情に翻弄されてきた人生の中で、初めて「心を休めたい」という純粋な感情を抱くようになります。
つまり、太后が毐国を建国した真の目的は、元々は秦の影響が及ばない安住の地を手に入れることでした。
しかし、この純粋な願いも、結局は呂不韋や楚国などの思惑に利用されることとなり、壮絶な反乱へと繋がっていきます。
『キングダム』毐国反乱編のあらすじ(登場巻数)
毐国の建国と反乱は、『キングダム』において壮大なスケールで描かれました。
ここでは、その物語が何巻で展開されたのかを追いながら、あらすじを解説します。
コミック37巻:建国の宣言
毐国建国のきっかけが描かれるのは、コミック37巻です。
秦が著雍を攻略し、その要塞化に資金難で苦戦していた嬴政のもとに、太后が資金援助を申し出る形で姿を現します。
太后は凶兆を理由に2年間も離宮である秦の古都「雍」に引きこもっていましたが、突然の出現でした。
嬴政陣営にとってその申し出は願ってもないものでしたが、太后は援助の見返りとして、嫪毐を山陽地域の長官に据えることを要求します。
呂不韋の弱みも握っていた太后は、これを強引に認めさせ、そしてこの巻で山陽の人々や物資を太原に集め、ついに毐国(あいこく)の建国を宣言します。
コミック38巻:加冠の儀と動き出す陰謀
毐国建国を受けて困惑する嬴政陣営に、コミック38巻では楚国侵攻の知らせが届きます。
これにより嬴政陣営は、毐国問題と楚国からの防衛という二つの課題に同時に対応しなければならなくなります。
一方、毐国では虎歴が秦からの軍に備えるべきだと進言し、太后と嫪毐の隠し子の件が秦にバレたという騒ぎも起こり、毐国が対秦へ向けて軍を起こす動きが加速します。
そんな情勢不安定な状況で、ついに嬴政の加冠の儀が「雍」で執り行われることになります。
この儀式には嬴政、呂不韋、そして太后自身も参加します。
しかし、この時、毐国軍は偽の王印を利用して函谷関(かんこくかん)を通過するなど、着々と咸陽への侵攻を進めていました。
実は、この迅速な軍の侵攻には呂不韋も絡んでいました。
呂不韋は加冠の儀を台無しにした上で、毐国軍に嬴政ら王族を殺させ、その後自身がこの反乱を鎮圧することで、自らが王になることを画策していたのです。
コミック39巻:咸陽攻防戦と昌平君の決断
コミック39巻では、この毐国軍の動きを嬴政が既に掴んでいたことが明かされます。
嬴政は密かに飛信隊を呼び戻していた他、合従軍の際に共に戦った蕞(さい)の兵を咸陽の守備隊として向かわせていました。
この準備があったため、嬴政は毐国軍が咸陽に迫る中でも加冠の儀の続行を決断します。
飛信隊と蕞の軍は、毐国軍の別働隊による妨害を受けながらも咸陽にたどり着きますが、その時には既に咸陽の城門は開けられ、毐国軍が城内になだれ込んでいる状態でした。
そんな絶体絶命の状況で、咸陽から謎の騎馬隊が毐国軍を蹴散らして現れます。
それは昌平君(しょうへいくん)直下の近衛兵軍でした。
加冠の儀は無事に執り行われ、その場で昌平君は、正式に呂不韋陣営からの離脱を表明します。
咸陽では、嬴政の子を産んだ向(こう)と嬴政の子が毐国軍に狙われていましたが、呂不韋の手回しもあり、毐国軍は後宮の構造を熟知していたため、その侵攻は迅速でした。
加冠の儀を終えた嬴政と呂不韋は、二人で天下について語り合い、この反乱をもって政争の決着がつくことになります。
コミック40巻:毐国の滅亡
コミック40巻では、毐国反乱の終結が描かれます。
毐国軍の兵に追い詰められる向でしたが、間一髪のところで信に救われます。
咸陽の守備戦も当初は苦戦を強いられますが、雍から昌平君が軍を率いて駆けつけたことで劣勢を挽回し、見事に咸陽を守り切ることに成功します。
これにより毐国軍は敗走し、この毐国建国編は、主要人物である嫪毐が生け捕りにされ処刑されたことで完結します。
嬴政は太后を幽閉し、嫪毐と太后の間に生まれた2人の隠し子に関しては密かに匿ったことを太后に伝えます。
これをもって、何巻にもわたって描かれた毐国の動乱、そして嬴政と呂不韋の長きにわたる政争が決着することになるのです。
毐国は史実に実在したのか?
『キングダム』で描かれた毐国の一連のエピソードは、読者に強烈な印象を与えましたが、この国は本当に史実に存在したのでしょうか?
毐国はわずか1年足らずで滅亡
結論から言うと、毐国は様々な人物や国家の思惑が絡み合った結果、その名目上の君主である嫪毐が処刑されたことで、滅亡したと言えます。
咸陽から敗走した毐国軍も、その後桓騎(かんき)軍によって完全に粉砕され、残存勢力は存在しません。
わずか1年にも満たない間に興り、そして消滅した国、それが毐国だったのです。
史実にも実在した毐国
『キングダム』で描かれた毐国のエピソードは、もちろん史実にも存在した出来事です。
実際に毐国は実在した国家であり、その首謀者である嫪毐が一族郎党死罪になったことも歴史に記録されています。
毐国が興ったこと自体は史実に基づいています。
しかし、その詳細な流れや過程が明確に残っているわけではありません。
例えば、信がこの反乱にどのように関わったのか、そして特に咸陽で行われた戦いの具体的な展開については、史実には記録がなく、これらは『キングダム』の作者、原泰久による独自の創作であると考えられます。
史実とフィクションが巧みに織り交ぜられている点が、『キングダム』の大きな魅力の一つと言えるでしょう。
毐国に加担した武将たち
毐国の反乱には、嫪毐や太后だけでなく、様々な思惑を抱えた武将たちが加担していました。
彼らの一部は史実にも名を残す人物であり、その描写にも注目が集まります。
樊於期(はんおき)
毐国軍で将軍の地位に就いたのは、樊於期です。
彼は血の気の多い人物で、挙兵する前にも練兵と称して周囲の部落を襲うなど、残虐な一面を見せていました。
強制的に徴兵された者も多い毐国軍を反乱軍としてまとめ上げた手腕は、彼が一定の軍才を持っていたことを示していると言えるでしょう。
樊於期は毐国反乱に加わった記録こそないものの、史実にも実在した将軍です。
史実では後に嬴政の怒りを買って燕に亡命し、秦王・政の暗殺を試みた荊軻(けいか)に自ら首を差し出したと記録されています。
『キングダム』作中では、樊於期は毐国軍の主要キャラクターで数少ない生き残りであり、この後燕に亡命するのではないか、と多くの読者が考察しました。
| 役割 | 毐国軍の将軍 |
| 特徴 | 血の気が多く、残虐な性格 |
| 史実との関連 | 実在した将軍で、後に燕へ亡命 |
樊琉期(はんるき)
樊於期の息子として登場したのが、樊琉期です。
父の血の気の多さを引き継ぎ、殺戮を楽しむような残虐な性格をしていました。
後宮で嬴政の子を狙いましたが、信に右腕を切断され、元々人望もなかったため部下に見捨てられます。
結果的に嫪毐と共に処刑され、悲惨な最期を迎えました。
| 役割 | 樊於期の息子 |
| 特徴 | 父同様に血の気が多く、残虐 |
| 最期 | 信に右腕を切断され、嫪毐と共に処刑 |

ワテギ
秦国への恨みを持つ将軍として登場したのが、ワテギです。
彼は元々異民族である戎籊(じゅうてき)族の王であり、かつて先祖が秦に併合されたことに今でも強い恨みを抱いていました。
昌平君の策略を見抜くなど確かな才を持っていましたが、最後は昌平君との一騎打ちに敗れました。
| 役割 | 秦国への恨みを持つ将軍 |
| 出自 | 異民族・戎籊族の王 |
| 特徴 | 昌平君の策略を見抜く才を持つ |
| 最期 | 昌平君との一騎打ちに敗れる |





毐国反乱編への読者の反応
毐国編は、『キングダム』の中でも特に読者の間で大きな反響を呼びました。
太后への共感と作者への称賛
多くの読者が注目したのは、太后への見方が変化したことです。
それまで断片的に描かれていたエピソードでは、太后は周囲に翻弄されながらも、その性格からあまり共感されないキャラクターでした。
しかし、毐国編で彼女の過去の苦難、特に趙での屈辱的な日々や、嫪毐との間に生まれた子供たちを守ろうとする母としての側面が描かれたことで、「太后に肩入れしたくなる日が来るとは」という声が多く聞かれました。
「太后様のターン良いね。史記には反乱の事実しか書かれていないだろうに、太后様を憎みきれないキャラにまで持っていった原先生に拝手!」といったコメントは、史実を基盤としつつもキャラクターに深みを与える原泰久の手腕に対する称賛と言えるでしょう。
史実と創作の融合への高評価
『キングダム』は古い年代を扱っているため、史実と作者の独自解釈が巧みに織り交ぜられています。
毐国の反乱は、秦にとって都合が悪く、まともな記録が残っていないであろうエピソードであるにもかかわらず、ここまで壮大な物語として広げたことに驚きと称賛の声が多く寄せられました。
「何巻にもわたって描かれてきた嬴政と呂不韋との決着、太后の思いなど様々なキャラクターの分岐点になった」という見方もあり、このエピソードが物語全体に与えた影響の大きさがうかがえます。
また、樊於期のように資料の少ない史実のキャラクターを巧みに活躍させつつ、結果としては史実通りの展開に収めている点も「キングダムの凄さ」として評価されています。
一方で、太后と隠し子に関しては、処刑されたという史実の記録をあえて捻じ曲げて生存させており、「これが今後のキングダムにどのように影響するのか気になる」という声も多く、今後の展開への期待も高まっています。
まとめ
『キングダム』に登場する毐国編は、太后と嫪毐による建国宣言から滅亡まで、わずか1年にも満たない期間の出来事でありながら、複数巻にわたって深く描かれました。
このエピソードには、太后の秘めたる思い、嫪毐の純粋ながらも愚かな行動、呂不韋や楚国など様々な勢力の思惑が複雑に絡み合い、物語の大きな分岐点となっています。
毐国は史実にも実在した国家であり、その興亡が『キングダム』独自の解釈と壮大なスケールで描かれることで、読者に歴史の深さと登場人物たちの人間ドラマを強く印象付けました。
まだ毐国建国のエピソードを読んでいない方は、ぜひこの波乱に満ちた物語に触れてみてください。
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